2021年4月8日 参議院 法務委員会 一般質疑
質問内容
・調停委員任命における外国籍排除問題について
議事録
第204回国会 参議院 法務委員会 第6号 令和3年4月8日
○高良鉄美君 沖縄の風の高良鉄美です。
本日は、前回予告しましたように、最高裁が調停委員の任命に際して外国籍者を拒否していることについて質問します。
私がこの問題を取り上げるのは、人権の問題であり、憲法の問題だからです。最高裁は、調停委員は公権力の行使又は国家意思の形成への参画に携わる公務員に該当すると主張し、外国籍者を排除しています。外国籍者を拒否することは調停制度の趣旨にかなうのかと、こういう視点から伺います。
民事調停委員及び家事調停委員規則第一条では、「民事調停委員及び家事調停委員は、弁護士となる資格を有する者、民事若しくは家事の紛争の解決に有用な専門的知識経験を有する者又は社会生活の上で豊富な知識経験を有する者で、人格識見の高い年齢四十年以上七十年未満のものの中から、最高裁判所が任命する。」と定めております。国籍は任命の要件としていません。国籍は要件でないから、家庭裁判所から推薦依頼を受けた弁護士会からは、国籍の有無にかかわらず調停委員としてふさわしい弁護士を推薦しているのだと思います。
神戸家裁から家事調停委員を推薦依頼された兵庫県弁護士会は、家事事件に精通している韓国籍の梁英子弁護士を度々調停委員に推薦しています。しかし、神戸家裁は、梁弁護士が外国籍であることを理由に最高裁への任命上申を拒否しています。これは家裁の判断ではありません。最高裁事務当局の指示によるものだからです。家事事件を多く扱い、家裁からの信頼も厚い梁弁護士が、国籍がないというだけで拒否されたことは、これに対して一番怒ったのは、調停の行われる当のこの家裁の所長と聞いています。梁弁護士によると、拒否は昨年十一月で実に十五回に上ったそうです。
この問題の最初の質問の通告で、外国籍の弁護士が調停委員となるためには帰化すればなれるのかと聞いたところ、最高裁の担当者は、帰化すれば可能だと答えました。しかし、国籍以外の要件を満たした方に、しかもこの国籍は規則の中にない、そういったもので帰化を強いることというのが問題ではないのかと、国籍による差別と言わざるを得ません。最高裁の見解を伺います。
○最高裁判所長官代理者(徳岡治君) お答えを申し上げます。
公権力の行使又は国家意思の形成への参画に携わる公務員となるためには日本国籍を必要とするとされているところ、民事調停委員、家事調停委員の法令上の権限、職務内容等に鑑みれば、調停委員は公権力の行使又は国家意思の形成への参画に携わる非常勤の公務員に該当し、その就任には日本国籍を必要とすると考えているところでございます。
○高良鉄美君 規則にないことを考えていると言った方がいいと思いますけれども。
では、帰化の関連でいいますと、日本国籍取りますと、中国人の弁護士が帰化して調停委員になったケースを紹介します。その調停委員は、中国人が関係する紛争に多く関わられて、家裁からむしろお願いされて、中国人が関係する紛争の調停がその方に集中していると伺っています。
日本には、特別永住者を含めて中長期に滞在する外国人は三百万人に上ります。調停で争う紛争の当事者は日本人には限りません。生活習慣や文化を熟知した多様な人材が調停を務めることで調停制度は充実すると思います。この充実することよりも最高裁は日本国籍を持つことが重要だとお考えでしょうか。御見解をお伺いします。
○最高裁判所長官代理者(徳岡治君) お答えを申し上げます。
調停委員の任用に当たりましては、法律の専門家ばかりでなく、豊富な社会経験、人生経験を持つ良識豊かな方や、法律以外の分野での専門的な知識、経験を備えた方を迎える必要があると認識しておりまして、現在も社会の多様な分野で活躍されている方が任命されております。
今後も、国際化の進展等の社会の変化に応じ、当事者が様々なバックグラウンドを持っていることも踏まえ、そのニーズに応えることができるよう多様な人材を確保していく必要があると考えておりますが、先ほど述べた理由から、日本国籍を有しない方を調停委員に任命することは難しいと考えているところでございます。
○高良鉄美君 今の最初の部分は良かったんですけれども、この多様な人材をして、しかも日本の国際化ということに貢献するような形でやっていくということですけれども、これは規則にもない、通達にもないと、法律にももちろんないと。法の支配や、あるいは法治主義でもないわけですよね。どこからこれが来ているのかという、その国籍の考え方ですね、これは考えでしかないわけですよ。
そうすると、資料でお配りしています。公権力の行使と言っていますけれども、公益社団法人日本調停協会連合会が調停について紹介しています。見てもらうと、この調停とは何かということを見ていただくと分かるように、調停委員は説得調整活動を行うのであり、当事者が合意しなければ調停は成立しません。公権力を行使する場面はありません。最高裁が答弁で公権力を行使する根拠に挙げたものはいずれも公権的判断を行うものではないと思いますが、これまで調停委員が公権力を行使したケースがあるのか、どのような場合にどのような公権力を行使したのか、具体的に示していただく必要があります。
そこで、具体的にお尋ねします。二〇一一年から二〇一五年において、調停委員会の調停前の措置、これは民事調停法の十二条一項にありますけれども、この調停前の措置を命じた件数は、二〇一一年で六十三件、二〇一二年三十三件、二〇一三年三十一件、一四年二十一件、一五年三十件と承知していますが、この場合に、当事者又は参加人が正当な理由なくこれに従わないために過料の制裁を科した件数は何件あるんでしょうか。
○最高裁判所長官代理者(門田友昌君) お答えいたします。
民事調停法第十二条第一項に基づく調停前の措置を講じた場合において、当事者又は参加人が正当な理由なくこれに従わないために過料の制裁を科した件数についてお尋ねですけれども、これに関する統計は取っておりませんので、お答えすることができません。
○高良鉄美君 それでは、二〇一一年から一五年、同じくですね、調停委員会の呼出しを受けた事件の関係人が正当な理由なく出頭しないために過料の制裁を科した件数というのは何件あるんでしょうか。
○最高裁判所長官代理者(門田友昌君) お答えいたします。
調停委員会の呼出しを受けた事件の関係人が正当な事由なく出頭しないために過料の制裁を科した件数につきましても、統計を取っておりませんので、お答えできません。
○高良鉄美君 それでは、二〇一一年から一五年において、同じ期間ですけれども、調停委員会の調停前の処分を命じた件数は何件あるんでしょうか。また、当事者又は利害関係参加人が正当な理由なくこれに従わないために過料の制裁を科した件数は何件あるんでしょうか。
○最高裁判所長官代理者(門田友昌君) お答えいたします。
家事事件手続法第二百六十六条に基づきます調停前の処分を命じた件数につきましては、こちらも統計を取っておりません。また、調停前の処分として必要な事項を命じられた当事者又は利害関係参加人が正当な理由なくこれに従わないことを理由とした過料の制裁の件数につきましても、統計を取っておりませんので、お答えできません。
○高良鉄美君 統計を取っていないという、この公権力の行使の根拠が分からないんですけれども、それほど大事なことじゃないんじゃないですか、これ、公権力の行使がと言って。それだから調べていないんでしょう。この調停委員会の権限については公権力の行使と法文ではあるかもしれませんが、そんな件数を取らないというのは、じゃ、公権力の行使が分からなくなってしまうじゃないですか。
国連の人種差別撤廃委員会から三度差別撤廃を勧告されていることは重く受け止める必要があります。最高裁は、国連からのこの勧告を無視し続けています。最高裁が国連人権機関からの勧告に従わないことは、政府や国民に対して、国連からの勧告には従わなくてもよいという、最高裁がメッセージを出してしまうおそれがあるんじゃないでしょうか。お伺いします。
○最高裁判所長官代理者(徳岡治君) お答え申し上げます。
委員御指摘のような勧告を受けているということは承知しておりますが、先ほど述べた理由から、日本国籍を有しない方を調停委員に任命することは難しいと考えているところでございます。
○高良鉄美君 資料の三枚目を御覧いただきたいんですけれども、これは最高裁から任命を拒否されている方のリストですけれども、外国籍ですね、多くはもう日本で生まれ育った方です。中には不幸な過去を背負わされた在日の二世や三世もいらっしゃいます。なぜ人権のとりでと言われる最高裁から差別を受けなければならないのか。この方々は弁護士として日本で活躍し、日本社会に大きく貢献しています。中には、もう法曹養成に携わる弁護士もいるわけです。差別をする側は忘れても、差別を解消されなければ傷が癒えることはありません。
最高裁はこの外国籍者を排除することのないように求めますけれども、これ、最高裁というのは憲法の中で名前があるわけですよ、名称が、最高裁判所はと。この最高裁は人権保障のとりでと言われています。そして、憲法九十八条は、国際条約、国際法規を遵守するようにと書いていますけれども、これは国際的な問題というよりも法の支配の問題で、この法の支配には違憲立法審査権やあるいは最高法規性、ほとんど民主主義や人権も入っていますけれども、こういったところで、憲法の目的というのは人権保障、人権を救済することにあって、その人権救済機関が最高裁判所なわけですよ。そこに、なぜ人権救済機関がこの差別をするということがあるのかというわけですね。
だから、こういったことを考えますと、私たち、法の支配の在り方というのを最高裁に前回問うとは、あるいは話すとは、もう、ちょっと信じられなかったんですけれども、これ、きちんとしていただきたいということを私強く言っておきたいと思います。
そして、実際に最高裁判所は、婚外子の相続分違憲決定、それから国籍法の違憲判決を最高裁は出しましたが、その際には国連からの勧告というのを裁判規範として、違憲判断の根拠として示してきているわけです。だから、裁判規範の一種として、国連からの勧告ないしは国際規約、そういったものを用いているわけですね。
是非、最高裁、これは別に判決の内容を言っているわけでもないし、介入でも何でもないです。法の支配ということを一番関連している機関だからこそ、そこを重視していただきたいということをお願いして、私の質問を終わりたいと思います。