国会質疑 Interpellation

2022年6月10日 参議院 法務委員会

質問内容

・拘禁刑について

議事録

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第208回国会 参議院 法務委員会 第17号 令和4年6月10日

○高良鉄美君 沖縄の風の高良鉄美です。
 まず、拘禁刑について伺います。
 先ほど山添委員の方からもありましたけれども、確認の意味でちょっとお聞きしたいと思います。
 七日の参考人質疑では、今井参考人、石塚参考人から異口同音に、拘禁刑の下では改善更生の作業や指導が刑罰の内容として課されるようになるという指摘がありました。異なる立場の専門家がいずれもこの刑の内容だということですから、そう理解すべきだろうと思います。
 他方で、これまでの政府参考人の答弁では、この作業や指導が拘禁刑という刑罰の内容として課されるかどうかについては明言されてきませんでした。
 そこで、先ほどのお答えになると思うので、要するに、確認としては、刑罰の内容として課されるかどうかはともかく、新しい刑法十二条三項の下では、課された作業を行い指導を受けることは受刑者の義務であると、こういうことで先ほどお答えになったと思いますので、これだけ確認いたします。
○政府参考人(川原隆司君) お答えをいたします。
 今回の法改正におきましては、より一層の改善更生、再犯防止を図る観点から、懲役及び禁錮を廃止し、これらに代えて拘禁刑を創設することとし、刑法第十二条第三項において、拘禁刑に処せられた者には、改善更生を図るため、必要な作業を行わせ、又は必要な指導を行うことができると規定することとしております。
 同項に基づいて受刑者に作業を行わせ、又は指導を行うこととなった場合、刑法上、当該受刑者には作業を行い、又は指導を受ける義務があると考えているところでございます。
○高良鉄美君 改めて義務だということで捉えました。
 そこで、拘禁刑の受刑者に対しては、改善更生及び円滑な社会復帰に必要と認められる場合には作業を行わせるものとされているわけですけれども、この受刑者の改善更生や社会復帰に役立つ作業と、それを用意することが重要になると思います。
 そこで、作業の内容もいろいろあると思いますけれども、他方で、日本の刑務所は受刑者に自営作業、すなわち施設における炊事、清掃、介助、矯正施設の建物の修繕等の作業を行わせています。拘禁刑の創設後も、従来と同様に自営作業を受刑者に行わせる方針なのでしょうか。
○政府参考人(佐伯紀男君) お答えいたします。
 拘禁刑創設後も、受刑者個々の特性を考慮しながら、改善更生及び円滑な社会復帰を図るために必要な作業を行わせることは可能でございますので、多様な作業を確保するといった観点から、今回の法改正後にも自営作業を廃止することは想定してございません。
○高良鉄美君 自営作業があるということですけれども、刑事施設を日々運営していくためにこの自営作業は欠かせないということですので。しかし、この拘禁刑が創設された場合に、この自営作業のために受刑者を確保すると、この作業、自営作業のための受刑者というんでしょうかね、を確保しようとすると、改善更生や社会復帰という作業の目的が後退してしまうのではないでしょうかということですね。ただでさえ刑務所では現在高齢化が進んでいるというお話も山下委員の方からありました。
 自営作業を担うことのできる人材は限られていると聞きます。例えば、毎日の炊事を担当する受刑者はなかなか休むこともできず大変だとも聞いていますが、そうした作業が本人たちの改善更生や社会復帰にどれだけ効果的なのかについては疑問もあります。自営作業を担う受刑者を確保するためにそうした受刑者の社会復帰がないがしろにされないか懸念されますが、法務省の見解を伺います。
○政府参考人(佐伯紀男君) お答えいたします。
   〔委員長退席、理事高橋克法君着席〕
 一般的に申し上げまして、その炊事、洗濯、介添え等の自営作業につきましては、社会での労働に質、量共に近似したものであるというふうに考えてございます。受刑者が自らの役割を理解した上で作業工程や手順を考えながら効率的に実行する作業でございますので、出所後の就労に必要不可欠な責任感、主体性、協調性といった能力を身に付け、また伸長させる上で相応の効果が期待できるものと考えてございます。
 また、これらの作業により習得が期待されるこの効果につきましては、出所後、雇用する企業からも強く要請されているものでもございますので、自営作業は改善更生や円滑な社会復帰に資するものと考えてございます。
○高良鉄美君 そこが本人の社会復帰にということで、判断は、一応その作業の過程を見れば、一般の、社会のですね、企業のとか、そういったことから求められるということですが、受刑者の方からすると、この作業、いわゆる自営作業は外部に委託するというようなこともあり得ると思うんですね。
 ですから、自営作業の将来的な在り方についてもちょっと見直さないといけない。要するに、今回、刑法のこの拘禁刑の中での本人に合ったというのが、見合うものということですから、特性とかですね、そういうことになると、必ずしも自営作業がこの特性として合っている、合っていないというのはまた問題になるかと思うんですね。
 ですから、社会復帰に有用な作業を確保するための具体的な対策というのがないまま、単に作業の目的が今回懲らしめから立ち直りに変わりますとはいっても、看板を掛け替えるだけで国民をだますような感じにならないかと。しかも、その一方で作業や指導を拒否すれば懲罰を科されるというわけですから、前回の参考人質疑で石塚参考人も言われたように、これは真の立ち直りのための制度とは程遠いと言わざるを得ないというような形を言われました。今回の改正は明治四十年以来の大改正ですから、今後もしっかりと見直し作業を続けていく必要があると私は考えます。
 そこで、アウトソーシングなどを含めて外部に委託するというようなことは考えているでしょうか。
○政府参考人(佐伯紀男君) 自営作業の在り方については先ほどお答えしたとおりでございますが、現在、刑事施設の一部ではPFI手法あるいは公共サービス改革法の枠組みを用いまして、効率的な施設運営や地域貢献などの観点から、給食、洗濯といった自営作業のうち様々な業務を民間委託して実施している施設がございます。
 自営作業は、今も御答弁したとおりでございますが、受刑者の改善更生及び円滑な社会復帰を図る上で有効な作業であると認識しておりまして、引き続き実施してまいりますが、一方で受刑者の減少であるとか高齢化などにも対処する必要がございます。
 こういったことから、施設の構造であるとか必要なスペースの確保といったハード面、あるいは委託できる企業の確保といったソフト面などの課題にも対処しながら、運営の効率性を含め総合的に検討してまいりたいと考えてございます。
○高良鉄美君 今回、本人のこの特性、受刑者の特性に応じてということが非常に重要だと私も思っています。その点、やっぱりこの施設の在り方、あるいはそこの運営の在り方等々も含めて今回しっかり見直し作業を続けていくということが大事だと思います。
 次に、更生保護法関係について伺います。
 七日の参考人質疑においても指摘がありましたが、今回の刑法等の改正案には、性質の異なる、先ほどからずっと出ていますけれども、性質の異なる数多くの改正提案が含まれており、中にはこれまでに実質的な議論が全くなされていないものや極めて重要な論点もあります。更生緊急保護に関する提案もその一つであると考えます。
 安江委員の方からもこの更生緊急保護に関する指摘がありましたけれども、今回、この更生保護法の改正案として、検察官が直ちに訴追を必要としないと認めた者に対する更生緊急保護を可能とすることという提案があります。これについては、法制審議会部会で起訴猶予処分前の者に対する更生緊急保護として議論されていたものという理解でよろしいでしょうか。
○政府参考人(宮田祐良君) 法制審議会においては、諮問事項を検討する上での素案として部会にて配付されました検討のための素案におきまして、御指摘いただきましたとおり、起訴猶予処分前の者に対する更生緊急保護と記載がされて、これを参考に議論が行われた結果、令和二年十月二十九日付けの答申におきまして、検察官において直ちに訴追を必要としないと認める者に対する更生緊急保護として取りまとめられました。
   〔理事高橋克法君退席、委員長着席〕
 今般の改正は、この法制審議会の答申を踏まえて行うものでございます。
○高良鉄美君 今言われたような形で、検察官のというようなことがありますけれども、更生保護の関連が今回の法案の中身として十分審議されたかどうかというのがちょっと問題がありまして、そこをお伺いしたいんですけれども。
 検察官が直ちに訴追を必要としないと認めた者という規定が、まあ素直にこれを読めば、必ずしもこの起訴猶予処分と決めている被疑者に限らず、将来起訴する可能性も否定できない被疑者も含むように理解できます。これも先ほどとちょっと関連しますが、京都弁護士会が五月二十日付けで出した意見書や、日弁連が五月二十六日付けで出した被疑者に対する社会内処遇制度案に対する会長声明の中でも同じような懸念が示されています。
 ところで、ちょっともうこの関連は答弁重なると思いますので、この更生緊急保護に先立って、被疑者がまだ勾留されているうちに生活環境の調整ができるようにする制度も併せて提案されています。刑事手続から離脱した人が速やかに社会復帰を果たせるようになるためには、早い段階からの支援や環境調整が重要であると思い、その点でこの制度の創設には意義があると考えます。
 ただ、気になるのは、生活環境の調整に当たっては検察官の意見を聞くものとされ、検察官が捜査に支障を生ずるおそれありと、相当ではないという意見を述べた場合には環境調整を行うことができないとされています。
 しかし、客観的に生活環境の調整を行う必要性があって、被疑者本人もそれを望んでいるという場合であっても、検察官が反対すれば環境調整ができないというのはおかしいのではないでしょうか。お聞きしたいと思います。
○政府参考人(宮田祐良君) 生活環境の調整の関係で御質問でございますけれども、この点、捜査に支障を生ずるおそれがあり相当でないという意見があった場合には生活環境の調整はしない、できないということになってございますけれども、そもそも勾留が、勾留中に行われる生活環境の調整でございまして、勾留がそもそも被疑者の逃走や罪証隠滅を防止しながら適正に捜査を行うために認められているというものであることから、勾留中の被疑者について仮に捜査に支障を及ぼすような介入をするということは、これは許されないものというふうに考えております。
 他方で、御指摘のとおり、勾留されている被疑者の中にも定まった住居がないなど安定した生活基盤がない者が存在いたしますし、そのような人が釈放された場合に、自ら公的機関等に支援を求めず、結果として生活基盤が整わないまま過ごした場合、再犯に至るおそれが大きいとも言えます。
 そのため、捜査への支障の有無を最も適切に判断し得る検察官の意見を聞いた上で、捜査に支障のない限りにおいて、勾留中の段階から住居、就業先その他の生活環境の調整を行うことができることといたしまして、釈放後の生活の安定や、申出があった場合の更生緊急保護の円滑な開始につなげようとするものでございます。
 今回の改正後、このような枠組みの中で生活環境の調整を適切に行ってまいりたいと考えております。
○高良鉄美君 検察官の意見を聞いてということでありますけれども、それに従わないと生活環境の調整ができない、その上、勾留中から生活環境の調整をした上で、処分保留で釈放となり、更生緊急保護を受けてもひょっとすると起訴される可能性があるというふうにすれば、一連の手続は実質的に検察官が中心になってコントロールすることにはならないでしょうかということで。
 やっぱり、いずれにしても、検察官が、起訴猶予にしてあげるよとか、この一連の生活指導を受ければとか、いろんな働きかけをして、被疑者にこういった働きかけを行うことにならないだろうかということと、それから、仮に起訴猶予になるんだとしても、被疑者には弁護人が選任されていない場合も多いでしょうから、起訴猶予にしてもらいたい一心で検察官の勧めるまま更生緊急保護を受けることに同意してしまうということにならないでしょうか。
 今なぜこういうことを言うかと、こういう質問をするかというと、法制審議会部会では、検察官が被疑者に対して改善更生に向けた働きかけをするという制度案についても議論されていたという経緯があるからです。この制度案は、日弁連を始め各方面からの反対などもあり、部会での議論の結果、見送りになったと理解しています。
 しかし、今回の提案によって、見送りになった制度案と同じような検察官による働きかけが実質的に可能になってしまうのではないでしょうか。
○政府参考人(宮田祐良君) 先ほどもお答え申し上げましたとおり、まず勾留中の被疑者に対する生活環境の調整は、捜査に支障のない範囲で勾留中の段階から生活環境の調整を行い、釈放後の生活の安定等を図ろうとするものでございますし、また釈放後の更生緊急保護は、対象となる人が申出、保護してほしいという手を挙げた方、その場合において、保護観察所の長がその必要があると認めた場合に行うものでございます。
 委員が御指摘いただいている、その一連の手続が実質的に検察官がコントロールすることとなるといったような趣旨が明らかでございませんので、どのように受け止めていいかちょっと戸惑っておるんですけれども、今般の改正は、対象となる人の円滑な社会復帰又は改善更生を保護するため、検察官とは独立した保護観察所の長が判断主体となりまして、勾留中の被疑者に対する生活環境の調整、それといわゆる処分保留で釈放された人に対する更生緊急保護を行うことができるようにして、適切な支援をより拡充しようとするものでございます。
 今回の改正後は、勾留中の被疑者に対する生活環境の調整、いわゆる処分保留で釈放された人に対する更生緊急保護を適切に行ってまいりたいと考えてございます。
 委員が後段でおっしゃられた、検察官が被疑者に対して改善更生に向けた働きかけをするという制度案というのが、確かに法制審議会少年法・刑事法部会第三分科会の配付資料で、起訴猶予等に伴う再犯防止措置の在り方(考えられる制度の概要)というものの第一に記載がございます。
 その記載された、検察官が働きかけを行う制度の導入というのを指していらっしゃるんだろうというふうに思うわけですけれども、今回改正によりまして導入したいという制度は、その資料の第二でありまして、第二に、起訴猶予となる者等に対する就労支援、生活環境調整の規定等の整備として記載されたものについて、先ほどお答え申し上げましたとおりの議論を踏まえて立案したものでございます。
 この二つですけれども、検察官が働きかけを行う制度におきましては、これは検察官が守るべき事項を設定して、この措置をとるかどうかも検察官が判断するということでありましたのに対しまして、今回の改正で導入したいとする制度において行いたい支援の措置は、検察官が守るべき事項を設定することもなく、検察官とは独立した保護観察所の長が勾留中の被疑者に対する生活環境の調整や更生緊急保護を行うかどうかを判断する、また判断して本人同意の下で実施をしていくというものでございますので、御懸念の点は当たらないというふうに考えております。
○高良鉄美君 客観的に見てというんでしょうか、一般的に見て、この法制審議会の中で、部会の中で真剣な議論を経て、一旦見送られたような形の制度なんですけれども、これが復活するように見える側面もあってということで、今懸念で少し申しましたけれども、是非とも現場で適正な運用がなされるように強く希望します。
 最後に大臣の方にお聞きしたいんですけれども、この拘禁刑の創設と侮辱罪の重罰化の法改正を同時に行うということについては、もう何度もずっと聞いていますけれども、参考人の質疑でも、これはこそくだとか、出来の悪い法案だというような厳しい指摘がありました。これ、真摯に受け止める必要があると思いますけれども、古川大臣の受け止めについて伺いたいと思います。
○国務大臣(古川禎久君) 今回の刑法等一部改正法案は、罪を犯した者の改善更生、再犯防止に向けた施設内、社会内処遇をより一層充実させるための法整備と、侮辱行為の抑止及び悪質な侮辱行為への厳正な対処を可能とするための侮辱罪の法定刑の引上げという刑事法における喫緊の課題に対処しようとするものであって、新たな被害者を生まない安全、安心な社会を実現するために必要かつ重要なものであると考えております。
 本法案に対しましては、先日の当委員会での参考人質疑におきまして、参考人の皆様から、拘禁刑の内容や再度の執行猶予の適用範囲の拡大に関する改正は適切なものであり、侮辱罪の法定刑の引上げも時宜を得たものであるという賛成の立場からの御意見だけでなく、反対の立場から、侮辱罪は処罰範囲が曖昧であり、法定刑を引き上げると表現の自由を萎縮させるおそれがある、拘禁刑で作業、指導を義務付けることは国際的な潮流に反するなどといった様々な御意見や御指摘をいただいたものと承知しております。
 こうした御指摘、御意見は真摯に受け止める必要があると考えておりまして、今後とも本法案の趣旨、内容を広く国民の皆様に御理解いただけるよう丁寧な説明を心掛けていきたいというふうに考えております。
○委員長(矢倉克夫君) お時間が来ております。
○高良鉄美君 時間が来ましたので終わりますが、一点だけ、聞くわけじゃなくて、刑法学会を揺るがすような根本的な問題があるというふうに参考人がおっしゃって、刑法学会に問合せなかったということがかなり大きな手続の問題になっていたようなんです。是非とも適正な手続も踏んでやっていただきたいと思います。
 じゃ、これで終わりたいと思います。終わります。