2022年6月7日 参議院 法務委員会 参考人質疑
質問内容
・刑法の一部改正について
議事録
第208回国会 参議院 法務委員会 第16号 令和4年6月7日
○高良鉄美君 沖縄の風の高良鉄美でございます。
今日は、三名の参考人の先生方、ありがとうございます。
早速ですけれども、今井参考人の方から質問させてください。
法制審の審議の中で先生が述べられていることなんですけれども、海外との比較ということは大事ではあるけれども、それぞれの言葉の意味とか、あるいは民事制裁を含めた全体的な構造と、こういったようなものを議論する、さらには、比較の上で今の状況を犯罪の現象としてどのように刑種を定めるかということについては議論していく必要があるというふうにおっしゃっているわけですね。
そうすると、これが去年の十月の話ですが、先ほど侮辱罪の概念がずっと出てきましたけれども、国によってこの言葉の意味が違うというようなことがあるとすると、この侮辱罪の意味に、それぞれ国際的に違うということでしょうかということでお聞きしたいんですけど。
○参考人(今井猛嘉君) ありがとうございます。
そこはやはり微妙にといいますか、実はかなり違っているところもあろうかと思います。
具体的には、今日の議論でも出ておりましたが、山田参考人の方から、プライバシーを含めるかということですね。侮辱というのは、その対象者の人格的な評価をおとしめる行為として日本では理解されておりますけれども、そのときに、彼又は彼女がこんなことをしちゃってねというふうに、秘密にしておきたい事項をばらすことによる侮辱的行為というものも実際には多いです。ですから、海外で侮辱が処罰されているというのを見るときに、実はこれはないしょにしておきたいプライベートなことのディスクローズを処罰している場合がありますので、そこは切り分けないといけないということも含めて発言したのだと思います。
○高良鉄美君 ありがとうございます。
この海外のものの比較ということで、フランスとドイツの比較がありました。
イギリスは元々、元々というか、先ほどずっと説明がありましたけれども、コモンローの問題もありました。そして、民事賠償の金額が高いと、高額ということでも、ほとんどもう民事だけになったというか、拘禁刑ですか、侮辱の方ですかね、それがなくなったというようなお話がありましたけれども。
その比較の中で、フランスはもうこの侮辱がなくなったと。失礼、刑ですね。刑としてフランスでは拘禁刑はないということで、しかし、ドイツの方は、お隣だけれども、二年というのが付いているということでした。
このドイツの場合ですけれども、フランスはもうなくなっているということですけれども、拘禁刑が、ドイツというのは戦前のヒトラーのナチスの問題がありましたので、侮辱表現とかそういうものに対してはかなり敏感じゃないかなということで二年が付いている、厳しめになっているということのその内容というんですかね、それ何でそうなったのかなということをちょっと知りたいんですけれども。
○参考人(今井猛嘉君) 私自身がドイツの法制を詳しく知るわけではございませんが、一般的に理解している、あるいは私が理解しているところでは、先生も御指摘のように、第二次世界大戦の反省がありますので、名誉毀損、侮辱併せてですけれども、一般に、今存在している人の評価をおとしめることが処罰されるのではなくて、真実を出す表現というのは許されていいんだという発想が割と強いんですね。
それが日本にも二百三十条の二として影響を受けているんですけれども、そういう真実を出し合うということは許されるけれども、虚偽の事実を出すことによって人の評価をおとしめるようなことというのは、これは許されない、責任ある言論ではないだろうということで刑が重くなっているのではないかというふうに理解しております。
○高良鉄美君 これ、実際にもその二年ぐらいの実刑を受けたというのはあるんでしょうか。
○参考人(今井猛嘉君) 済みません、それは私もコンメンタールを読んで、だけでございますので、実際の運用についてはちょっと存じません。申し訳ございません。
○高良鉄美君 ありがとうございます。
やはり先生がちょうど議論していく必要があるということで、今国際的な潮流も含めてずっとありますけれども、一か月ですね、ほぼ、まあ一か月でしたでしょうか、法制審の開かれた、去年ですね。やはり議論していく必要があるというのは、今もう議論がずっとありますけれども、その一か月で出るということについては何か適切な期間だったかどうかということでお聞きしたいんですけど。
○参考人(今井猛嘉君) ありがとうございます。
私も幾つかの部会にはこれまでも参加させていただいておりますが、侮辱罪に関する部会はその中でも期間は短かったですけれども、初めから議論が白熱していたと感じております。本当の核心的な部分にすぐ入っていきまして、弁護士の委員の方、あるいは実務家の方、研究者がかなり突っ込んだ大事な議論を初回から続けました。ですから、初回の段階で既にどこで議論が分かれ、どういう選択肢があるのか等が見えてきまして、二回目ではそれについての議論を継続しました。
やはり皆さん専門家の方でありますから、これ以上続けてももう結論の違いは見えているなということで決議に至ったのだと思いますので、私としては、その審議密度は高かったので、二回ではございますけれども、当時の感想として議論で残されたところはなかったと思っております。
○高良鉄美君 ありがとうございます。
一般的に一か月というのは短いかなという感覚を受けるんですけれども、やっぱりその間にいろんな議論をするというのは、委員の方々の審議会の議論だけじゃなくて、パブリックコメントとか、そういう外に向けたものも必要じゃないかなと思うんですが、その辺はいかがでしょうか。
○参考人(今井猛嘉君) パブリックコメントは行政庁の施策等を検討する際にはとても有効なものだと思いますけれども、刑法というふうな罰則規定を考える際にパブリックコメントがそもそもどれぐらい有効なのかなというところは、私は個人的には思っております。それよりは、もう少し専門的な領域に知見や経験を持つ者が冷静に議論をするということの方がいいのではないかと思っております。
また、先ほどの先生の質問に対する補充の回答でございますが、部会長の差配も適切でありまして、二回目のときでも、随分と、ほかに御意見はありませんかというふうな意見を確認をされた上で議決に至っておりましたから、繰り返しになりますけれども、審議密度が非常に高く、かつ皆さんが初めからこのポイントについて議論しようというふうに目標が明確だったので相当な結論に至ったと思いますし、パブコメの必要性は感じなかったところでございます。
○高良鉄美君 ありがとうございました。
次に、山田参考人にお聞きしたいと思います。
先ほど萎縮効果の話も出たんですけれども、非常に分かりやすい図で、この萎縮効果の、先生の資料の最初にありますヤフーの非表示の問題がありましたけれども、この非表示をしていくこと自体がもう既に萎縮効果を先取りしているというような感じに受けるんですけれども、その辺り、いかがでしょうか。
○参考人(山田健太君) 萎縮効果と自主自律の自主規制というのは、なかなかその差は難しいのかもしれません。少なくともヤフーの場合には、自主自律、自ら律して自ら主体的に動くという意味合いでの自主自律の自主規制をした中での非表示対応をしているというふうに私は理解しておりますけれども、むしろそれよりも、萎縮というふうに言った場合には、外的な圧力であるとかあるいは社会全体の空気感であるとか、そういうものの中で他者の表現を必要以上に制約をする場合、あるいは、他者のそういう空気感の中で自らが本来したいという表現行為を取り下げてしまうということが起きているという実態、今の実態の方が萎縮というふうに呼ぶのにふさわしい状況かなと思っています。
○高良鉄美君 やはり今ずっと山田参考人が一貫しておっしゃっているのは、やっぱり全体構造の中で弱者と強者の問題がありました。そのときの問題というのは、何か今の憲法のできてきた経緯も含めて、国家権力の中で行われてきた歴史と、その中でいうと、やっぱりこれまでの、随分、共謀罪の問題とか安保法制の在り方とか、そういう表現の自由が侵されてくるような過程というのを見たときに、というか、国家権力はそもそも強いわけですから、権力に対する批判というのが出てくれば、それは批判の対象に信頼の問題がすごく強くあると思うんですね。
だから、こういう法案が出てきたときにこういう対応をするというふうな、この法律の中身もそうでしょうけれども、実施をしていく際に大丈夫かなという、こういう不信が出てくるというのが大きな問題で。そのときには、やっぱり全体構造として、そのポイントだけではなくて、やはり今の刑法の審査だけではなくて全体的な流れからいうと、この刑法の一部改正、今回の法案については、それはどういうふうにお考えでしょうか。
○参考人(山田健太君) まさに今お話しになられたように、私自身はこの侮辱罪はたかがじゃないと思っているんですね。たかがではなくて、非常に大きな改正であって、全体構造、制度設計を変える法案の改正だと思っているんですね。
だからこそ、私自身は、先ほどの質問にもありましたように、今回の法務省の説明も、あるいは法制審の審議も不十分ではないかというふうに外形的に判断をしているわけでして、確かに、多少欠陥があっても、重大な立法事実があってその問題解決のためにどうしても必要な法案ならば、大きなベネフィットの前に小さい穴は目をつぶるとか、あるいは、皆さんもされるんでしょうけれども、附帯決議でばんそうこうを貼るなりして、あるいは見直し条項を付けて法案を通すという選択肢もあるかもしれません、あるかもしれません。あるいは、その政権の一丁目一番地のような、そういう主要政策を体現するような法制度の場合には、メンツに懸けて通すぞということもあるのかもしれません。今回、何があるんですかね。何があるんでしょう。それが分からないんですね。
しかも、繰り返し言っているように、とっても大きな方針転換で、これまではずうっと自由拡大してきたのを、いや、今後は、目の前の被害救済のためには、そうじゃなくて、規制していく方向で変えますよということを新たに言ったわけですね。でも、これはもっともっときちんと議論をして、全体の法構造をどうするのか、名誉毀損法体系どうするのか。
そもそも名誉毀損法体系というのは、前の議論も、お話もあったみたいに、秘密保護法制、緊急事態法制、名誉毀損法制というのは三本柱で、批判の自由を制約するために使ってきた、これはもう古今東西、政権が使ってきた三つの矢なわけですよ。その三つの矢をどういうふうにうまくバランスを取ってきちんと表現の制約なんなりにしていくのかというのはとっても大切な議論なわけで、そういうような、何というかな、重大な法改正なんだという認識がやはり十分に足りていなかったんじゃないかなというのを私自身はとっても危惧しているし、残念に思っているということであります。
○高良鉄美君 ありがとうございました。
石塚参考人にお聞きしたいと思います。
刑事政策学の研究者の声明ということが出されておりますけれども、その中で日本の刑罰政策の根幹を揺るがしかねない同法案というような表現がありまして、これは相当、この揺るがしかねないという、大きな問題ということですけれども、その辺りはどういう意味合いを含まれておりますでしょうか。
○参考人(石塚伸一君) 二つあります。
一つは、先ほど申し上げましたように、日本の刑罰制度は刑罰一元論でした。しかし、今回の法案が通ると、自由刑の中に改善更生という目的が入るので、改善・処分法に変わる可能性があります。刑罰の基本的な軸です。
ドイツなどは、元々二元主義を取ります。過去の犯罪に対しては責任を追及する刑罰。将来の危険性に関しては、例えば精神病院収容処分だとか、常習累犯に対しては保安監置という保安処分、そういうものを科すのを二元主義で持っています。これは将来に対してです。
今回の十二条は、過去の責任と将来の改善更生と、これを一体化していますので、刑罰という枠組みの中で将来についての執行目的を書き込んだというのは非常に大きなことだと思います。
いま一つは、先ほど名前をお出ししていますけど、松尾先生が危惧されていた政治犯、国事犯の人たちを刑事施設に入れることが、例えば内乱罪は禁錮刑しかないんです。内乱というのは成功すると革命家ですから、内乱が失敗したときに刑務所に入ってきた人の思想を改造するということを意味します。
先ほど今井先生おっしゃいましたけど、日本のような民主的な国で、本当にこういう自由で民主的な国で生きていられて幸せだと思いますが、一旦何か事があったとき、どんな時代になっても刑法はその国の国民なり人々の生命と自由を守らなきゃいけないわけです。とりわけ、政治家の皆さんの発言や行動、これを守らなきゃいけないんです。刑務所に収容されたとしても労働を強制されたり改善を強制されたりすることのないように、皆さんを守っている法でもあるんです。
したがって、これをこの度のような改正を加えるということは、思想改善を認めることになるので、刑法改正としては根幹を揺るがすというふうに考えます。
○委員長(矢倉克夫君) 時間です。
○高良鉄美君 時間が参りましたので、これで終わりたいと思います。
ありがとうございました。