国会質疑 Interpellation

2022年5月24日 参議院 法務委員会

質問内容

・外国人技能実習制度について

・刑法等改正案について

議事録

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第208回国会 参議院 法務委員会 第14号 令和4年5月24日

○高良鉄美君 沖縄の風の高良鉄美でございます。
 先ほど山添委員の方から表現の自由の問題がありました。
 これ、まず基本的なところがもう違っているんですよ。表現の自由がなぜ重要かというのは、これは国家に対する権利です。で、今、インターネットの中傷誹謗の問題というのは、これはなぜまた制限される可能性があるのか、あるいは制限しなきゃならないのがあるかというのは、これは私人の関係で、相手の人格の問題ですよ。だから、表現の自由の重要性というのは、そういったインターネットの問題でやるんではなくて、国家に対する権利だということを申し上げておきます。そして、最後にそれを触れますが。
 まず、一昨日、沖縄の方に行ってまいりましたら、外国人技能実習制度廃止全国キャラバンが沖縄とそれから北海道でスタートしました。私も沖縄でのタウンミーティングに参加をしましたが、これは、移住連、つまり移住者と連帯する全国ネットワークが立ち上げたキャラバンです。移住連は、外国人技能実習生の長時間労働、賃金不払、実習実施機関等による人権侵害、保証金の徴収や強制帰国の問題など、外国人技能実習生に対する人権侵害行為を摘発し、技能実習生を保護、支援しています。
 今起きている問題は、二〇一六年の外国人技能実習法案の審議のときから懸念されていた問題であり、国際貢献の名の下に外国人の技能実習生が安価な労働力として扱われるのではないかということを多くの議員が指摘しましたが、強行採決の末、制度が開始されました。政府は技能実習制度の見直しを検討されていると承知していますが、外国人技能実習制度は一旦廃止をして、外国人の人権を保障した上で受入れを図る制度を新たに創設すべきだと考え、本日は、先に外国人技能実習制度から質問いたします。
 まず、技能実習基本方針及び技能実習制度運用要綱において例外が認められています。この例外の中ですけれども、技能実習基本方針では、技能実習生が実習実施者から人権侵害行為を受けた場合はもとより、実習先の変更を求めることについて、やむを得ない事情があると認められる場合には実習先変更の支援を行うとされています。技能実習制度運用要綱においては、実習実施者の経営上、事業上の都合、実習実施者における実習認定の取消し、実習実施者における労使間の諸問題、実習実施者における対人関係の諸問題等、現在の実習実施者の下で技能実習を続けさせることが技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護という趣旨に沿わないと認められる事情による実習先の変更が認められています。
 これが、具体的にはどのようなケースが例外的に認められているのか、法務省に伺います。
○政府参考人(西山卓爾君) 委員御指摘ございました実習先の変更についてのやむを得ない事情があると認められるか否かにつきましては、現在の実習実施者の下で技能実習を継続することが適正な技能実習という趣旨に沿わないと認められるような事情の有無、専ら本人の自分本位によるものではないか否かなどを個別の事案ごとに総合的に判断することとなります。
 その上で、具体例といたしましては、実習実施者による暴行、パワハラ、セクハラなどの重大な人権侵害行為があった場合、実習実施者の経営上、事業上の都合や実習実施者における実習認定の取消しにより実習の継続が困難になった場合、労働契約の不履行や契約をめぐる争い、実習実施者との相性が悪いなどの事情により、客観的にも技能実習の継続を困難ならしめるほどの事情が認められる場合などが考えられるところでございます。
○高良鉄美君 やっぱり具体的にちょっと例を挙げていただくと非常に分かりやすくなりました。理解しやすいというんでしょうかね。
 この例外的に転職できることを、技能実習者はもちろん、支援団体、一般にも広く伝わることが重要ですが、今言われたような転職できるというような内容も含めて、周知をどのようにされるのかを伺いたいと思います。
○政府参考人(西山卓爾君) 技能実習生に対しましては、入国時に技能実習生全員に配付しています技能実習生手帳におきまして、実習先の倒産、廃業や事業縮小など、やむを得ない事情で技能実習を行うことが困難な場合は転籍が可能なこと、また、監理団体が転籍の責務を履行しないときは機構において実習先変更の支援を行うので機構又は母国語相談に相談してほしいことを明記して周知をしているところでございます。
 また、監理団体や支援団体等、技能実習関係者に対しましては、委員からも先ほど御指摘があった技能実習制度運用要領におきまして、実習先の変更に係る規定について記載することを通じ、周知をしております。
 委員御指摘のとおり、技能実習生本人はもとより監理団体や支援団体等、技能実習関係者に対して、こうした取組について正確な理解、認識を徹底いただくことが重要でありますことから、制度を共管する厚生労働省や外国人技能実習機構と連携し、周知やその内容の充実に努めてまいりたいと考えております。
○高良鉄美君 やはり沖縄の方で質問もありました。そもそもが転職できるんですかというのがありましたので、今のような形で今後も周知していただきたいと思います。ありがとうございます。
 最近、この外国人技能実習生には、ベトナムから来日されるケースが多くなっています。地域によっては、中国からの技能実習生を抜いて一番多いというようなところもあります。
 そこで次に、日本、ベトナムの合意内容について伺います。
 先般、岸田総理がベトナムを訪問され、五月一日には共同記者発表をされています。外務省のウエブサイトには幾つかの項目で合意をしたとあるんですが。第二に人的交流です、日本では技能実習生を含む多くのベトナム人に活躍していただいていますが、このシステムを悪用する関係者がいるのも事実です、今般、ブローカーを介さずに技能実習生が自ら送り出し機関や求人情報にアクセスできるサイトの構築で合意しました、問題ある慣行を抜本的に変え、技能実習生等の適切な訪日が実現するよう引き続きチン首相と協力していきます、と紹介されています。
 悪質な仲介業者には言及があるものの、送り出し機関については言及がありません。送り出し機関についても様々な問題が指摘されてきたので、やはり送り出し機関も対象とすべきではないでしょうか。
○政府参考人(岡田恵子君) お答え申し上げます。
 五月一日の日越首脳会談におきまして、技能実習生等の送り出しに関する公的なプラットフォームの構築について合意いたしまして、今後、両国の関係機関の間で具体的な制度設計を進めていく予定でございます。
 プラットフォームの構築によりまして、日本での実習や就労を希望される方が送り出し機関の情報や求人の情報に直接アクセスできるようになることを通じまして、悪質な仲介事業者が排除されることが期待されるところでございます。
 委員御指摘の悪質な送り出し機関の排除につきましても、技能実習制度の適切な運用におきまして重要な点と認識してございます。具体的に申し上げますと、このプラットフォームの構築に当たりまして、送り出し等実績、費用、行政処分歴といった送り出し機関に関する情報が客観的かつ正確にプラットフォームに掲載されるようにすること、及びベトナムに帰国された方からのフィードバックを適切に反映してプラットフォームに掲載される情報の質を高めていくことが重要と考えてございます。
 今後、プラットフォーム構築の検討を具体化してまいりますが、検討に当たりましては、今申し上げました考えの下で、日越両国の関係機関の間で鋭意調整を進めてまいります。
○高良鉄美君 今、だんだん外国人技能実習生の多さ、ベトナム、特に増えておりますので、是非、せっかく二国間でいろんな合意をされたので、今のような形で送り出し機関も、そして両国の情報交換ということも非常に重要だと感じました。
 今御説明されましたが、やはり重要なことは外国人技能実習生を取り巻く問題解決に向けた今後の取組だと思うんですけれども、そこで、今後の取組についてちょっと伺いたいんですが、よろしくお願いします。
○政府参考人(股野元貞君) お答え申し上げます。
 ベトナムとの技能実習制度の今後の取組についてでございますけれども、外務省といたしましては、引き続き、在ベトナム日本大使館並びに主務省庁でございます法務省や厚生労働省と連携しつつ、ただいま答弁ありましたプラットフォーム構築に係るプロジェクトや二国間取決めに基づくベトナム側との情報連携をしっかりと行い、ベトナムとの間で技能実習制度のより一層の適切な運用に取り組んでまいりたいと考えております。
○高良鉄美君 総理の訪問でいろいろ進歩があったということで、ほかの外国人技能実習生の入っている国々、そことも同じような改善を望みたいと思います。
 さて、本題の刑法等改正案について伺いたいと思います。
 処遇を一層充実させ立ち直りを後押しするための諸制度の導入ということと、侮辱罪の法定刑の引上げのための法改正と、これを同時に行うことについて質問いたします。
 両案は別々の諮問であり、別々の部会で議論されてきたと承知していますが、なぜ同時に行うことにしたのか、その理由を改めて伺いたいと思います。
○政府参考人(川原隆司君) お答えをいたします。
 今回の法改正は、罪を犯した者の改善更生、再犯防止に向けた施設内・社会内処遇をより一層充実させるため所要の法整備を行うとともに、インターネット上のものを始めとする侮辱行為を抑止し、また、当罰性の高い悪質な侮辱行為に対する厳正な対処を可能とするため、侮辱罪の法定刑を引き上げるものでございます。これらはいずれも、刑事法に関する現下の課題に対処するため刑法を改正するという点で共通していることから、一つの法律案で改正しようとしたものでございます。
○高良鉄美君 まだきちんと答えになっているか分からないんですけれども、刑事法の改正だからという今お答えでしたけれども。
 実は、私は、前回の委員会で、民訴法改正案の審議においてもこのIT化を推進する法案に法定審理期間訴訟手続が盛り込まれたことを指摘したところですが、本来行う法改正に、性質の異なる多くの問題点が指摘された内容を盛り込むことは問題ではないでしょうか。実際、このIT化を推進するための質問よりこの法定審理期間訴訟手続に質問が多かった、集中しているということで、法案審議の在り方から見ても望ましくないと思いますけれども、法務省の見解を伺いたいと思います。
○政府参考人(川原隆司君) お答えをいたします。
 二つ以上の法律改正を一つの法律案にまとめて一括化して国会に提出いたしますことは過去にも例があるところでございまして、先ほども申し上げましたとおり、今回の法改正の内容はいずれも刑事法に関する現下の課題に対処するため刑法を改正するという点で共通していることから一つの法律案で改正するものでございまして、過去の例に照らしましても一つの法律案として提出することが問題であるとは考えていないところでございます。
○高良鉄美君 それは、過去の例はちょっと分かりませんが、問題はあったものもあるんじゃないでしょうか。
 例えば、今回、その前半の部分というんでしょうかね、再犯防止の部分とか、そこはもう大体、いい処遇を考えていくと、再犯防止のためにと思うんですね。それで、インターネットの誹謗中傷の問題もそれはそうかもしれないと、しかし、もう少し慎重なという中で、今委員の方々、やっぱり問題ありというところもあるわけですね。そうしたときに、例えばAの部分、A案の部分とB案の部分というふうに分かれるわけですね。同じ刑法の部分であっても。そうすると、A案に賛成だけれども、B案の部分に反対だったら私はどうすればいいんですか、反対すればいいんですか、賛成すればいいんですかという、こういう問題が起こると思うんです。
 ですから、やはりこの性質、内容を、まあ刑事法であることは間違いないとは思いますけれども、やっぱりそこの考え方を今後も少し考えていただく、あるいはこれから慎重に考えていくということでありますけれども、関連して、もう少し侮辱罪の法定刑の引上げと法制審の在り方について伺いたいと思います。
 侮辱罪の法定刑を引き上げることがインターネット上の誹謗中傷への対処として的確なのか疑問があります。侮辱罪の法定刑の引上げについては法制審が異例の短期間で答申をしていますが、どの程度議論されたのでしょうか。法制審の審議時間とパブリックコメント、あるいは関係団体から意見聴取などをされたのか、実施状況を法務省に伺います。
○政府参考人(川原隆司君) お答え申し上げます。
 侮辱罪の法定刑の引上げにつきましては、法制審議会の部会においては、この分野に精通した刑事法の専門家を交えて、表現の自由との関係を中心に議論が行われたところでございます。
 具体的には、第一回会議において、侮辱罪の法定刑の引上げの相当性に関連して正当な表現行為との関係について各委員、幹事から様々な御意見が述べられ、第二回会議においては、これらの御意見を踏まえ、論点を整理しつつ更なる議論が行われたところでございます。審議の時間といたしましては、第一回会議が二時間四十四分、第二回会議が一時間四十五分でございまして、合わせて四時間二十九分でございました。
 これらの会議では、全体を通じて非常に活発な議論が行われ、第二回会議において本諮問に対する議論は尽くされたと認められたことから、全ての委員、幹事が同意した上、部会としての意見の取りまとめが行われたところでございます。
 それから、パブリックコメントについてお尋ねがございました。法制審議会におきましてはパブリックコメントは実施しておりませんが、部会での審議におきましては、インターネットの悪用に対する実効的な対策を立案、実行する民間団体の役員の方にも委員として御参加いただき、その専門的知見に基づく御意見を随時お示しいただいたものと認識しております。
 また、総会におきましては、刑事法の専門家以外にも、憲法、会計学、政治学の研究者、経済界、労働界、マスコミといった各界各層の有識者が委員を務めておりまして、その諮問時と答申時の二回にわたる審議を経て答申がなされたものでございます。
○高良鉄美君 パブリックコメントは実施していないということですので、やはりこの大きな法改正があるときには従来実施していたと思うんですが、委員の中にそういう方々を、関連の方々を入れているという今お話がありました。
 この法制審議会で、侮辱罪の法定刑の部分ですけれども、この引上げについては日弁連の委員が反対をし、労働組合の委員が保留をしています。反対や慎重な立場からどのような意見が出されたのでしょうか。また、その意見はどのように反映されたのか、法務省に伺いたいと思います。
○政府参考人(川原隆司君) お答えをいたします。
 法制審議会の総会及び部会におきまして侮辱罪の法定刑の引上げに対して述べられた反対意見の内容は、表現の自由に対する萎縮効果が懸念される、法定刑を引き上げるとしても、懲役、禁錮ではなく罰金とすべきであるなどというものでございました。また、法制審議会の総会におきましては、現時点で賛成又は反対という明確な判断を下すことができないため意見を保留するという意見が述べられました。
 法制審議会におきましては、これらの御意見において示された懸念を踏まえ、表現の自由との関係について論点を整理しつつ、集中的に審議が行われたところでございます。そして、侮辱罪の構成要件に該当する行為であっても、公正な論評といった正当な表現行為については、現行法の下での刑法第三十五条の正当行為として違法性が阻却され処罰されないと考えられ、この点は今回の法改正によって何ら変更されないことが確認されたところであり、こうした議論の結果、諮問のとおり侮辱罪の法定刑を引き上げるべきであるという意見が大勢を占め、最終的に、法務大臣に対し、今回の侮辱罪の法定刑の引上げと同じ内容の答申がなされるに至ったものでございます。
○高良鉄美君 労働組合の方は保留、慎重にして明確に賛成、反対が言えないということでした。それから、日弁連の方は反対をしたということなので、これどちらも大きな組織ですね。そこが保留やあるいは反対の立場というようなことを示されているわけですから、ここは慎重さの上に慎重さを、特に今、表現の自由との関係ですね、どのような関連性があるかというのをこの二回あるいは三回目で決めてしまうというのは余りにも短いんじゃないかなと。要するに、このプロセスも非常に大事じゃないかなと私は思っています。一か月だったと思いますけれども、そういう審議ではいけないだろうと思います。
 そして、先ほど憲法の学者も入っているということでしたけれども、これは、表現の自由を基本的人権ということで非常に重要視しているというお話も大臣の方からありましたので、この権利が制限される懸念があると、まあ制限されるという確実なものじゃなくても、懸念があるということは何度も表明されているわけですね。だから、ここの中に、例えば憲法学会とかいろんなところから意見を聴取するなり、委員のお一人だけではなくて、そういうことが必要じゃないかなと私は思います。
 そして、表現の自由は実は精神的自由なんですよね、表現はしているけれども。これは、心の中で思ったことを外に出すだけの話になるわけですから、精神的な内面で考えているものと同じなわけです。それぐらい重要であるというのが国際的な認識なんですね。だから、これが表現になって、例えば個人の人格、あるいはそれを侵害して侮辱をするということは、これ相手の人権だからですよね。人権と人権がぶつかるということが問題なんですよ。そこでしか制約は受けないんです。だから、国家の都合とかいろんなもので人権が制約されるというのは大きな問題です、憲法学上はですね。
 その上で、先ほども刑法三十五条が出て、正当行為であるか、そのときには違法性が阻却されるということですけれども、これは、表現の自由が侵される側はこの違法性が阻却されるかということを心配するわけですね。判断するのはどこかといったら裁判所が最終的なんでしょうけれども、この間のバランスというのは、表現の自由が非常に重要だけれども、萎縮効果はここに出るんですよね。自分がやることが、これ、その正当行為にちゃんと保護されるのかどうかというのは分からないわけです。やってみなければ分からないというような、こういう法律の仕組みではこれ問題なんです。
 やはり構成要件についても、これはその該当性がはっきりしていないといけない。過去の事例があって、あるいは過去の裁判例をというのは、表現する国民にとってはそれ簡単なことじゃないわけですよ。今から、今言わなきゃいけないと。これを、過去のものを持ってきてどう判断していくというのは、これ自体がもう萎縮効果になるわけです。だから、この捉え方はきちんとこれから議論をしていかなきゃいけないだろうと。
 私、もちろん、人格、個人の尊厳を侵害されたインターネットの誹謗中傷というのは、これは問題だろうと思います。しかし、表現の自由の中身というのをしっかりとこれ検討していかないといけないだろうということで、罪刑法定主義と言われていますけれども、憲法の三十一条の適正手続というのは、特に刑事手続の場合は非常に慎重にやらなければいけない、こういうものを突き付けているんだろうと思います。
 インターネットの問題と、それから今回の再犯防止ですね、これ、やはり慎重に、どちらも違う問題だということでこれからもまた議論していきたいと思いますけれども。根本的な法の支配というのを何度も何度も私は問うていますけれども、法の支配の中のこの適正手続の問題というのも、法制審の在り方というものが問われていると思います。少なくとも、何年を掛けたという法制審もありますけれども、答申までですね。一か月というのは余りにも短い。まあ期間の問題ではないかもしれませんが、この中身の入り方というのが、あるいはそこでの議論の深みというのが、余りにも表現の自由というものに対する、まあこれは問題だから、批判だからおかしいというようなことで片付けるんではないと。
 それから、正当行為の問題もしっかりと今後も質問したいと思いますけれども、時間が来ましたので終わりたいと思います。
 ありがとうございました。