2022年5月12日 参議院 法務委員会
質問内容
・期間限定裁判について
議事録
第208回国会 参議院 法務委員会 第11号 令和4年5月12日
○高良鉄美君 沖縄の風の高良鉄美でございます。
裁判の迅速化と期間の予測可能性を高めるためとして導入する法定審理期間訴訟手続、いわゆる期間限定裁判については、質問と答弁が必ずしもかみ合っていないため、再度確認させていただきます。
まず、一昨日の委員会で通告して質問できなかった本人訴訟の割合についてお伺いします。
本人訴訟の割合が、地裁約五割強、簡裁の方は約九割強ということでしたが、実際に裁判を担当している弁護士に伺いますと、地裁では本人訴訟の割合がそんなに高いという印象は受けていないということです。恐らく、欠席判決であったり、貸金請求や家賃滞納で争いようがない場合に、和解を求めるなど、弁護士に費用を掛けてまで依頼する必要のない案件がかなりの部分を占めているのではないかと指摘されています。
実質的に争われている事件で本人訴訟率を示すようなデータ分析はされているのでしょうか。
○最高裁判所長官代理者(門田友昌君) お答えいたします。
委員御指摘の実質的に争われている事件における本人訴訟率という司法統計はございませんで、確たるお答えをすることは難しいところでございます。
なお、参考までにということで申し上げますと、令和二年に既済となりました事件のうち、いわゆる欠席判決で終了した民事通常訴訟事件の割合は、地裁でおよそ二割、簡裁でおよそ三割となっておりまして、これらの事件の多くは被告に訴訟代理人が選任されていないのが通常と思われますので、実質的に争われている事件に限れば、本人訴訟の割合はより低いものになるということは御指摘のとおりかなと思われるところでございます。
○高良鉄美君 データの分析ですね、やはりこれきちんとやっていただきたいなと思います。
次に、期間限定裁判を導入している国は承知していないと先日ありました。その理由について政府参考人は、各国の民事訴訟制度は一様ではなく、それぞれの国の事情に応じてふさわしい制度が採用されているものと考えられますと、諸外国に法定審理期間訴訟手続と同様の制度がないという理由を問われてもお答えすることは困難と答弁されました。
これはちょっと開き直りとも取れる発言です。なぜなら、新しい制度をつくる際には、少なくとも日本と同様の先進諸国の法制度を調べるとか、導入していない場合はその理由を調べるべきだと思いますが、法務省の見解を伺います。
○政府参考人(金子修君) 導入されている制度につきまして、どういう、海外で導入されている制度を参考に我が国でも導入しようとする場合には、その制度の導入の理由とかあるいはその運用の状況とかを調べるというのは有効かと思いますけれども、少なくとも法務省が把握している限り、諸外国にあるという情報は得ていないということです。ですので、何でないのですかということを聞くとしましても、そういう制度がないのでそこを調査するというのが難しいという趣旨で申し上げたところです。
今回、我が国に導入するに当たっては、民事訴訟制度研究会が実施していた民事訴訟利用者制度や司法統計などの統計を参考にしつつ、弁護士や裁判官といった法律実務家や手続法の研究者、あるいは経済団体、労働団体などが参加する法制審議会において議論を尽くした上で示された答申に基づき創設しようとするものでございまして、審理期間等の予測可能性を高める手段を講ずる必要性の指摘もございましたので、それにも応えるものであるというように認識しているところでございます。
○高良鉄美君 諸外国にはないということまでは調べたということでしょうけれども、やはりこの制度は、全く新しい制度と、要するに諸外国ではない制度をこれからつくるんだということなんですよね、基本的に。そうすると、やっぱりそういう場合には、きちんとなぜなのかという理由を入れなかったというのは、当然、新しい制度ですから、そこは普通の場合、新しい制度をつくるという場合には、なぜないということは当然疑問になると思うんですね。そこはもうやっていただきたいなと思いました。
古川大臣にお伺いします。
古川大臣は、アンケート結果として、裁判の期間の予想が困難であるために裁判制度の利用をちゅうちょしてしまうことが一つの要因で、要因と考えられるため、予見可能性を高めるべく制度の創設を考えたと答弁されています。
仮にこれが立法事実の重要な要素であるとするなら、アンケートが明確に裁判をちゅうちょする理由でなければ説得力はありません。例えば、裁判を断念した人にその理由は何かという問いに、裁判が長期化するかもしれないからと、そういったような回答があれば立法事実になり得ると思います。このアンケートというのは、裁判を断念した人にその理由を問うものだったのでしょうか。
○国務大臣(古川禎久君) この調査結果、アンケート結果は、委員が御指摘に今なられたような裁判を利用しなかった方へのアンケートではございません。しかしながら、審理期間等の予見可能性を高める手段を講ずるこの必要性を裏付ける、つまり立法事実を基礎付ける一つの事情として認められるというふうに私どもは判断をいたしております。
その内容をちょっと御紹介をさせていただきますと、この平成二十八年に実施されました民事訴訟利用者調査におきましては、裁判が始まった時点で裁判が終わるまでにどのくらいの時間が掛かるか事前に予想が付いていたかとの質問に対して、全く予想が付かなかったとの回答が五六・四%でありました。また、この調査におきまして、裁判をちゅうちょした気持ちがあったかとの質問に対して、はいとの回答が四九・四%であり、その理由として、裁判は時間が掛かると思ったからが当てはまるとの回答が七八・四%でございました。
○高良鉄美君 立法事実ということで考えますと、その部分の方々に聞いたということになると思いますので、一番やっぱり断念した方を、当然、断念したというところまでは、申立て、いろんなものがあるでしょうから、そこは調べるべきじゃなかったかなというのが私の感想です。
次に、古川大臣はなぜ期間限定裁判と言わないのかを問われて、期間だけの問題と思われないよう、期間限定裁判ではなく、法定審理期間訴訟手続と言っているという趣旨の答弁をされました。ちゅうちょしている人に対してなら、むしろ期間限定裁判と言う方が前向きに捉えやすいんじゃないかと思いますが、なぜそうしないのか、伺います。
○国務大臣(古川禎久君) 改正法案におきましては、民事訴訟法の第七編に法定審理期間訴訟手続に関する特則という編を設けまして、民事訴訟法第三百八十一条の二から第三百八十一条の八までの規定を設けておりますが、これらの規定の中でも法定審理期間訴訟手続という名称を用いているところでございます。
そして、法案提出者の立場にある法務大臣としましては、誤解を避けるためにも法案中の用語を使って説明すべきであると考えております。
さらに、この実質においても、この手続は当事者のイニシアチブにより、すなわち両当事者が希望する場合に限り利用されるものでありまして、また、当事者の一方の意向によって通常の手続での審理を求めることができるのでありまして、期間の限定ありきの制度ではありません。そのため、期間限定という名称は、何かこの期間が限定され、強制的に限定されてしまうというような印象につながるのではないかという、そのような私としては印象も持っているところでございまして、したがいまして、その期間限定という言葉は使わないというふうに申し上げました。
以上の理由から、私は法案審議の答弁におきましても一貫して法定審理期間訴訟手続という名称を使わせていただいているところでございます。
○高良鉄美君 ちなみに、これは法定審理期間というものの訴訟手続ということで、まあ名称的にはですね、あるわけですけれども、普通、訴訟手続といいますと、職務執行命令訴訟手続というのがかつて機関委任事務にありましたけれども、これは明らかに対象に対して訴訟手続というんじゃないかということなので、これは法定審理期間に関する訴訟手続のように聞こえますが、そこら辺、ちょっとやっぱり分かりにくいかなという印象を逆に持ちました。
十日の、次ですね、十日の委員会で、裁判所の人的、物的充実を図ることが長期化を解消することになるのではないかという私の質問に、最高裁長官代理者は、事件処理に影響を与えるものではないと答弁されました。しかし、実務を担っている弁護士からは、訴訟を長期化している要因として、裁判所の法廷が空いていないために期日が入りにくいとか弁論準備室が空いていないなど、裁判所の物的、人的な基盤整備が必要と指摘されています。これは事実ではないのでしょうか。
○最高裁判所長官代理者(小野寺真也君) お答えいたします。
この委員会の参考人質疑におきましてそのような御指摘があったということを承知しておるところでございますが、この前も申し上げましたとおり、近年、相当数の判事などを増員いたしまして着実に体制の整備を図ってきたところでございまして、引き続き、事件動向、事件処理状況等も踏まえつつ、裁判所の人的、物的体制の充実に努めてまいりたいと考えております。
また、裁判所といたしましては、今般の改正法の趣旨も踏まえまして、引き続き、ウエブ会議等を活用して期日を柔軟に入れるなど、この審理運営の改善等も行うことで適正かつ迅速な事件処理に努めてまいりたいと考えております。
○高良鉄美君 人的、物的設備等々、基盤整備が必要ということで、今ちょっとそういう触れ方をしましたけれども、裁判所の認識とやっぱり実務を担う弁護士とかあるいは現場の職員の認識との間には差があるように思います。しかし、この現場の声をもう少し重く受け止めて充実の方を図っていただけたらと思います。
最後に、最高裁判所に伺います。
裁判当事者の代理人である弁護士は、憲法七十七条に明記されています。これは、訴訟の重要なアクターであります。その現場で活躍する弁護士から疑義を呈されている制度改正には、裁判を受ける権利の実体的意義という面から慎重さが強く求められます。
憲法三十二条の裁判を受ける権利は、刑事事件を想定して、裁判によることなしに刑罰を科されないことを消極的には意味していました。しかし、積極的内容としては、民事事件において、訴訟を提起し、裁判を求めることができること、そこまで意味しています。裁判を受ける権利は、独立して公正な、公平な裁判所において、平等に自由、権利を救済することを求めることができるとされています。このことから、基本権を確保するための基本権と言われ、世界人権宣言やヨーロッパ人権条約あるいは人権規約に見られるように、国際的承認と保障を得ています。
近代司法制度の下では権利実現のための自力救済は禁じられており、だからこそ、何人も自己の権利利益が侵されたときには裁判所に救済を求めることができ、裁判を受ける権利が保障されているということです。現在では、司法権は、民事、刑事だけでなく、立憲主義の目的である国家権力統制機能を持つ行政事件をも対象に含むもので、更に裁判を受ける権利の重要性は増しています。
今少し述べましたけれども、日本は余りにも小さな司法の国家ではないかと。要するに、司法権の充実が足りないんじゃないかということで、国際的比較を見ても、法曹人口はもちろん、法曹人口、国民一人当たりの法曹人口の少なさはそれを示しています。また、裁判所予算も国家予算の〇・四%、あるいは現在は〇・三%台で推移をしており、貧弱な三権分立と言わざるを得ません。裁判を受ける権利、裁判費用の補助……
○委員長(矢倉克夫君) 高良君、時間が過ぎておりますので。
○高良鉄美君 法律扶助を含めた司法の財政基盤の拡充が求められています。
最後に見解をお伺いしたいと思います。済みません。
○委員長(矢倉克夫君) では、端的に。
○最高裁判所長官代理者(小野寺真也君) お答えいたします。
裁判を受ける権利は憲法上保障されている重要な権利だというふうに裁判所としても認識しておるところでございます。また、適正迅速な裁判の実現のためには、裁判所における人的、物的体制を確保していくことも重要であるというふうに考えております。
裁判所といたしましては、引き続き、事件動向や事件処理状況を踏まえつつ、裁判所の人的、物的体制の充実を図りながら、国民の期待に応えられるよう努めてまいりたいと考えております。
○委員長(矢倉克夫君) 時間が過ぎております。
○高良鉄美君 ありがとうございました。是非、充実を図っていただきたいと思います。
これで終わります。ありがとうございました。