国会質疑 Interpellation

2021年5月13日 参議院 法務委員会 少年法改正案

質問内容

・少年法改正問題について

議事録

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第204回国会 参議院 法務委員会 第13号 令和3年5月13日

○高良鉄美君 沖縄の風の高良鉄美でございます。
 最高裁にまずお尋ねしたいと思います。
 五月十一日の法務委員会で最高裁の手嶋家庭局長は、現行の少年法の下における家庭裁判所の調査、審判等の手続について、少年の再非行防止と立ち直りに有効に機能しているという御指摘をいただいていることを大変感慨深く受け止めていると答弁されました。一方で、今般の少年法改正の当否につきましては、基本的に立法政策の問題であるとおっしゃっています。
 今回の法改正に一番危機感を持っているのは、家裁の調査官たちです。
 今回、資料としてお配りしていますけれども、家裁調査官の伊藤由紀夫さん、この新聞記事ですけれども、二〇一七年十一月十五日付けの朝日新聞のインタビューで、少年司法の原点は、二十歳未満の人間は立ち直る柔軟さがあり、更生のための教育的配慮が有効として、全ての非行事件を家裁送致したことです、少年法の適用年齢引下げ問題は、この原点を根本的に否定することにつながります、なのに最高裁も家裁も沈黙していることが残念でなりませんと述べられています。
 先日、私は、最高裁、特に家裁は当事者であるというお話をしました。現場の調査官からも、最高裁は現場の声を聞かなかったという声が上がっています。最高裁はこのような現場の声をどのように受け止められているでしょうか。
○最高裁判所長官代理者(手嶋あさみ君) お答え申し上げます。
 今般の少年法改正につきましては、委員御指摘のようなものも含め様々な意見があることは承知をしているところでございます。
 その上でございますが、今回の改正の当否については、先日も申し上げましたとおりの認識でございまして、今回の改正が、成長途上にあり可塑性を有する存在である一方で、社会において責任ある主体として積極的な役割を果たすことが期待される立場となった十八歳及び十九歳の者について、少年法の適用に関し、その立場に応じた特例等を定めるということでございまして、基本的に立法政策に係るものと承知をしているところでございます。
 裁判所としましては、そうした意味で意見を述べる立場にはないものと考えておりますが、いずれにしましても、改正法が成立をした際には、国会での御審議や法制審議会での御議論も踏まえ、少年の再非行防止、それから立ち直りに向けて一層の適切な運用に努めてまいる所存でございます。
○高良鉄美君 もう少し最高裁にお伺いしたいと思いますが、適用年齢引下げの少年法改正論議というのは、実は一九七〇年、今から五十年前にも行われていました。
 資料としてお配りしている「家庭裁判所物語」の抜粋にそのことが書かれております。法制審議会に提出された要綱というものに対して現場の裁判官たちが反対の声を上げ、諮問と同じ日に最高裁長官に決議文を出されました。
 今回、最高裁は立法政策の問題であると答弁されていますけれども、先輩裁判官たちは危機感を持って行動されています。最高裁は当事者意識が足りないのではないかと申し上げましたけれども、やっぱりこういった問題に対して当事者というような姿勢でないんではないかという疑問に対してどのような御意見をお持ちでしょうか。
○最高裁判所長官代理者(手嶋あさみ君) お答え申し上げます。
 今回の改正は、先ほども申し上げましたとおり、基本的には立法政策に係るものであるという認識であることに加えまして、裁判実務の運用という観点からも、犯罪の嫌疑がある限り全件を家庭裁判所へ送致するなどの点におきまして、現行少年法の枠組みをおおむね踏襲する内容のものとなっており、運用上も大きな支障を生じることはないものと承知をしております。
 したがいまして、最高裁としましては、その改正案の当否について意見を述べるべき立場にはないものと考えているところでございます。
○高良鉄美君 これは司法の、行政の問題ではなくて、司法の担当というよりは司法権そのものの問題だと思うんですね。ですから、司法権としてはこの少年法の対応についてどういうふうに思うのか。あるいは、それに対して調査官の方々、あるいは元裁判官の方々が声を上げていると。それだけれども、いや、もう何も声を上げる、あるいは説明を求める、意見を言う立場にありませんというようなものでは、この法案そのものに家庭裁判所というのが何度も出てくる、調査ということも、先ほど山添委員からもありましたけれども、何度も何度もこの条文の中には入ってきて、しかも、戦後、少年法、新たに変わって家庭裁判所ができるときには、生まれ変わる、別の裁判所組織ができるんだということで皆さん頑張ってきたと思うんですね。そこは基本的な姿勢として重要なことだというふうに思います。
 少年法改正の趣旨、目的についてお伺いしたいと思います。これは法務大臣の方にお願いしたいんですけれども。
 上川大臣は、民法の年齢が引き下げられたからといって論理必然的に引き下げなければならないわけではないと、適用年齢維持が適当であると答弁されています。私も、民事責任と刑事責任は別個に論じられるべきものと思います。この適用年齢維持の、適当とする理由を再度明確にお答えいただきたいと思います。
○国務大臣(上川陽子君) この少年法の適用年齢、適用対象年齢の在り方につきましては、成長過程にある若年者をどのように取り扱い、どのように改善更生を図るかに関わる問題であると認識をしております。また、公職選挙法の選挙権年齢や民法の成年年齢が引き下げられたからといって、論理必然的にこれを引き下げなければならないものではないとも考えているところでございます。
 本法律案におきましては、十八歳及び十九歳の者につきまして、責任ある主体として積極的な社会参加が期待される立場となる一方で、いまだ成長途上にあり、また可塑性を有することを踏まえまして、一定の特例を設けた上で、全事件、これを家庭裁判所に送致し、原則として保護処分を行うという少年法のこの基本的な枠組み、これを維持することとしているところでございます。
 そこで、本法律案では、少年法における少年の年齢は二十歳、二十歳のままとして、十八歳及び十九歳の者を引き続き少年法の適用対象とすることが適当であると考えたものでございます。
○高良鉄美君 ありがとうございます。
 この十八歳という年齢の数字が出てきたのは、昨日、川原刑事局長お話あったように、国民投票法あるいは改憲手続法の中で十八歳というのが出てきたと、そして公職選挙法の規定での選挙権が十八歳と、そして今回、民法が二十歳から十八歳に下がるということで、この少年法の問題もそこに関係しているということでしたけれども。
 日本のこの家庭裁判所できるときの少年事件の問題というのは、アメリカの家庭裁判所を参考にしたというのがありますけれども、そして実際、アメリカは憲法の修正二十六条で、選挙権の問題で十八歳に、アメリカはどこへ行っても十八歳だということが全州一緒になったわけですけれども、この十八歳に選挙権の年齢が下りたときに、果たしてこの刑事責任の年齢はどうなんだろうというと、今現在、ほとんどフォローして十八歳になっているところが多いんですね。
 しかし、これ七十年も前なんです。一九七一年にこの十八歳になったんです、選挙権がですね。あっ、七十年前じゃない、五十年前ですね。その五十年前からすると、すぐ刑事責任の問題も下がっていいんじゃないかと思いますが、逆に、現在はむしろこの選挙の年齢とこの刑事責任の年齢を合わせたことに対して問題があるとか、逆にこれでは早まったとか、いろんな形で今運用で変えていったりしている面もあるわけですね。
 そうすると、この成長途中の問題というので、今、日本がまさにそのことを今これだけ議論していると。この間、京都コングレスの話もありました。そして、法の支配の問題もあり、少年事件の問題が、今、世界の中で、ある年齢の問題をやろうとしているところの中で、日本は今ここに、二十歳なのか十八なのかの問題についてこれだけ議論をしているということは、少年法、日本の少年法、あるいは先ほど来話が出ている保護司の問題とか、これむしろ、世界に、ああ、こういう議論し始めたけれども、すごい強い思いでこの十八歳引下げの問題を議論していると、そして適用の問題について厳しく議論が行われているということは、とても私重要だと思うんですけれどもね。
 そういったことに関して、少年法の趣旨、目的ということで先ほどお話をしましたけれども、今度はこの件を、関連して、少年事件から刑事事件にこの十八を境にして変わるかもしれないということについて、原則逆送対象の事件の拡大についてお伺いしたいと思います。
 強盗罪を含め、新たに原則逆送対象事件となる事件についても、十分な調査を尽くし、犯情の軽重を含む様々な事情を調査した上で適切な判断を行うものと想定している、改正案の少年法六十二条第二項のただし書にその趣旨が明記されているということですけれども、家裁の調査官の調査は極めて重要になってきますけれども、どのように臨まれるのか、最高裁に伺いたいと思います。
○最高裁判所長官代理者(手嶋あさみ君) お答え申し上げます。
 家庭裁判所におきまして、現行の少年法第二十条第二項の定める原則逆送事件も含めまして、家庭裁判所調査官において、非行の動機、態様、結果等だけでなく、少年の性格、年齢、行状及び環境等も含め、少年の問題性、要保護性について十分に調査を尽くし、裁判官においてそれらの結果を十分に踏まえて処分を決定しているものと承知をしているところでございます。
 本法律案は、第六十二条第二項ただし書において、現行法第二十条第二項ただし書と同様の例外規定を置いております。したがいまして、新たに原則逆送対象事件となる事件につきましても、現行法第二十条第二項の原則逆送事件の場合と同様に、犯行の動機、態様及び結果、犯行後の情況、特定少年の性格、年齢、行状及び環境その他の事情について家庭裁判所調査官による丁寧な調査を尽くし、その上で、それらの結果も十分に踏まえた上で、個別の事案に応じた処分の決定をすることになるものと承知をしております。
○高良鉄美君 今、原則逆送事件の拡大という問題ですけれども、この一定の犯罪については刑事処分になることを示すと、今この拡大した部分ですね、自覚や規範意識を高め、再犯を含む犯罪の予防に資すると考えられると答弁されています。
 少年事件は減少して、少年法が機能していること等によって少年の再非行は成人の再犯よりも低いとされています。なぜ原則逆送事件の拡大が再犯を含む犯罪の予防に資するのか、その理由を伺いたいと思います。
○政府参考人(川原隆司君) お答えいたします。
 現行の原則逆送の仕組みは平成十二年に議員提案の改正により設けられたものでございますが、その際の提案者の御答弁によりますと、少年であっても刑事処分の対象となるという原則を明示することにより、自覚と自制を求めて少年の規範意識を育て、健全な成長を図るとの趣旨で導入することとされたものでございます。
 本法律案におきまして十八歳以上の少年につきましてこの原則逆送対象事件の範囲を拡大しておりますが、このような趣旨で導入された原則逆送の対象の拡大でございますので、これによりまして、一定の重大犯罪に及んだ場合に刑事処分の対象となるという原則を明示することも、自覚を高め、規範意識を向上させるとともに、再犯を含む犯罪の予防、防止に資するものと考えているところでございます。
○高良鉄美君 少年事件の問題は、科学的な調査、あるいは科学的方法によってこれをチェックしないといけないと、あるいは検討しないといけない、分析をしないといけないということだと思いますけれども、後ほどこの関連でまた少しお話をしたいと思いますけれども。
 保護処分の期間について、先ほど山添委員からもありましたが、お伺いしたいと思います。
 現行の少年院法では少年院収容年齢の上限は二十六歳未満ですが、今回の改正で収容期間の上限が三年に限定され、最長でも二十三歳未満というふうになります。
 先日、川村参考人は、生育上の根深い問題を抱えている少年には時間が足りないことも出てくるのではないかと懸念を示されました。また、大山参考人は、御自身の経験から、事前に期間を決めてしまうことが再犯防止の点から危うくなると指摘をされました。大山参考人は、初めに期間が決められたら、その期間が来たら出院できるということ、少年院には進級制度もあり、努力して改善したと認められなければ出院できなかったと。面接や作文などいろいろな働きかけがあったけれども、先に期間が決まれば、しんから改善をしないで出院を待つようになり、再犯防止の点からも危うくなると懸念を示されました。
 これらの懸念についてどのようにお考えでしょうか、法務大臣にお伺いしたいんですが。
○政府参考人(大橋哲君) 現行の少年院法では、少年院からの仮退院は、少年院の長が、処遇の段階が最高段階に達し、仮退院を許すのが相当であると認めるときは、地方更生保護委員会に対してその申出をすることとされているところでございます。
 法制審議会の部会では、現在の少年院における十八歳及び十九歳の者に対する処遇の実情を踏まえると、一般的に三年あれば仮退院後の社会内処遇を含めて必要な処遇期間を確保できるのではないかと指摘がされているところでございます。また、施設内処遇につきましては、その期間を長く取れば取るほど、それに単純に比例して処遇効果が上がり続けるというものでは必ずしもないと指摘されておりまして、本改正案におきましては、このような指摘を踏まえて、家庭裁判所が少年院に収容する期間として定めることができる期間の上限が三年とされているものでございます。
 今回の法改正がされたといたしましても、定められた上限期間まで必ず収容されるものではございませんで、現行と同様に改善の度合いに応じて仮退院、退院をさせる仕組みは維持することとしておりまして、少年院における処遇効果が現行と大きく異なるものになるとは考えておりません。
 また、収容の上限につきましても、現在においても二十歳まであるいは収容継続二十三歳までというような上限が定められておりまして、このような中で、現在、少年院に入院してくる者の中には、この期間を漫然と過ごせばいいというふうに思って入ってくる少年も実際ございます。そのような少年と向き合いまして、話をよく聞き、自分の話をよく聞いてくれる大人もいるんだと、信じられる大人もいるんだというような思いを持たせて矯正教育に向かわせていく、これはまさに少年院の矯正教育の真髄とも言えるものでございますので、今回の法改正がされたといたしましても、このような働きかけを継続してまいることを考えております。
○高良鉄美君 この内省という言葉がずっと少年院の場合には出ておりますけれども、やはり本当にその反省のところに至って実のあるものになっていくということが非常に重要ではないかなと。だから、期間というよりも、そういったことに至るというのが重要かと私は思っています。
 推知報道の問題について少し伺いたいと思うんですけれども、推知報道禁止の一部解除について、まず推知報道禁止の立法趣旨をお伺いしたいと思います。法務大臣、お願いします。
○国務大臣(上川陽子君) いわゆる推知報道を禁止する少年法の六十一条の趣旨でございますが、一般に、少年の特定に関する情報が広く社会に伝わり、少年の社会生活に影響を与えることを防ぎ、その更生に資することにあるとされているところでございます。
○高良鉄美君 少年法の六十一条の推知報道の禁止の原則というのは、実際上は徹底されていないところがあると。全国紙やテレビ等で世間から注目を浴びる少年事件について、少年の氏名や顔写真が報道されることも少なくありません。少年法六十一条は、審判中だけでなく、その前の捜査段階や審判後の矯正施設収容後も準用されると解されています。行為時に少年であった者に対して死刑判決が確定した場合にも推知報道の禁止が及ぶかについて、多くの報道機関が実名や顔写真付きで報道した一方で、匿名を維持した報道機関もあり、この対応が分かれておりました。
 上川大臣は、事件報道に当たっては、インターネットの特性も踏まえ、適切に対応していく必要があると答弁されました。現代、本当にインターネットが、先ほども質問がありましたけれども、今回、このようなインターネットのような特性があると随分違うんじゃないかと思います。大山参考人の経験によると、それは不可能ではないかと、適切に対応していくということがですね、と思いますが、更生が不当に妨げられない適切な対応とはどのような対応なのか、法務大臣に伺います。
○国務大臣(上川陽子君) 現行法の下におきましての取扱いにつきまして、一般論として申し上げるところでございますが、検察当局におきましては、事件広報に当たりましては、刑事訴訟法第四十七条の趣旨を踏まえ、個別の事案ごとに、関係者の名誉、プライバシーへの影響及び将来のものも含めた捜査、公判への影響の有無、程度等を考慮し、公表するか否かや、またその程度及び方法を慎重に判断しているものと承知をしております。
 そして、被疑者、被告人が少年のときに起こした事件につきましては、推知報道を禁止する少年法第六十一条の趣旨をも踏まえ、事件自体を公表するか否かを判断し、事件自体を公表する場合におきましても、被疑者、被告人の氏名、年齢、職業、住居、容貌等により本人を推知することができる事項を含まないように留意しているものと承知をしております。
 本改正によりまして、十八歳以上の少年のときに犯した罪により公判請求された後は、少年法第六十一条が適用されないこととなった場合には、検察当局におきましては、少年の健全育成、更生が不当に妨げられることのないよう、先ほど申し上げました諸事情のほか、本改正の趣旨を踏まえつつ、個別の事案ごとに公表するか否かや、また公表する事項及び方法につきましても適切に判断するものと考えております。
○高良鉄美君 十八歳、十九歳のときに罪を犯した者について、公判請求された場合に推知報道の禁止が及ばないとすれば、十八歳、十九歳の者が類型的に未成熟で成長発達途上にあり可塑性に富む存在でありながら、本人及びその家族のプライバシー等が保護されないだけでなく、対象者が更生を図ろうとしても、就職、住居の賃借など、更生を図るための極めて重要なことに直面するそのたびに社会から拒絶されるリスクを高めることになって、社会復帰の妨げとなりかねません。
 これは大山参考人からも懸念として強調されたところですけれども、報道あるいは情報発信に伴う言わば社会的制裁、名前を公開していくような、としての効果を容認することにもつながりかねず、対象者自身の更生意欲や対象者の更生を支えるべき家族等の社会資源にも深刻な悪影響をもたらすおそれがあって、結果として対象者の立ち直りを阻害し、再犯の可能性を高めることになりかねません。
 大山参考人のお話では、小さな町であっても、報道されていなくてもみんな知っているというのがあって、自分もバイトを探すためにはもう隣町に行かないといけなかったと、そういうようなお話がありました。インターネットの現代になると、もうそういうことではいかないと思います。
 これが実証されて、取り返しが付かないと思いますけれども、仮に立ち直りを阻害するようなことが明らかになって再犯率が高くなった場合に、推知報道は禁止するということでいいでしょうか。法務大臣に伺います。
○国務大臣(上川陽子君) 本法律案におきましては、附則第八条がございます。施行後五年経過の段階で、十八歳及び十九歳の者に係る事件の手続、処分に関する制度の在り方に関しまして、それまでに蓄積された運用実績、またその時点におきましての社会情勢、また国民の意識の動向等も踏まえまして検討を行うこととされているところでございます。この御指摘の推知報道に関するものも含めまして、仮に施行後に何らかの問題等が生じた場合におきましては、まさに附則第八条による検討の対象となり得るものと考えております。
 法務省といたしましては、国会での御議論等も踏まえまして、多角的な観点から検討が行われることができるように適切に対応してまいりたいというふうに考えております。
○高良鉄美君 これで終わります。