国会質疑 Interpellation

2021年5月11日 参議院 法務委員会 少年法改正案

質問内容

・選択的夫婦別姓について

・少年法改正問題について

議事録

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第204回国会 参議院 法務委員会 第12号 令和3年5月11日

○高良鉄美君 沖縄の風の高良鉄美でございます。
 少年法の質疑に入る前に、選択的夫婦別姓についてお伺いします。
 アメリカ・ニューヨークで夫婦別姓のまま結婚した日本人の夫婦が婚姻関係にあることを戸籍等で公証される地位にあるということの確認等を求めた訴訟の判決で、東京地裁は四月二十一日、戸籍等で公証される地位にあることの確認を求める訴えを却下し、そのような請求は棄却しました。が、理由中で、日本でも婚姻自体は有効に成立していると認定し、この判決は五月七日に確定しました。
 婚姻が有効に成立するか否かは、配偶者としての相続や、あるいは婚姻中に生まれた子供が嫡出子とされるかなど、実体法上の取扱いに影響すると考えられます。また、戸籍においてその婚姻関係を公証することができないと、婚姻関係にあることなどの証明などの負担が生ずることになります。
 夫婦の氏の合意があるかないかによりそのような差異が生じることは好ましくなく、法務省としてこのような差異が生じないように取り組む必要があると考えますが、法務省の見解をお伺いをします。
○政府参考人(小出邦夫君) お答えいたします。
 御指摘の東京地裁の判決でございますが、外国の方式に従い夫婦が称する氏を定めないまま婚姻の手続を行った原告らが戸籍等により婚姻関係の公証を受けることができる地位の確認を求めた訴えについては不適法として却下するとともに、そのような公証の方法を設けていない立法不作為が憲法第二十四条に違反するとの原告らの主張を認めず、その国家賠償請求を棄却したものでございまして、国が全面的に勝訴したものと承知しております。
 この判決の理由中におきまして、米国で日本人の男女が婚姻後の夫婦が称する氏を定めずに婚姻の手続を行った場合については、我が国においても、夫婦の氏を定めるまでの暫定的なものとされていますが、婚姻自体は有効に成立しているとの判断が示されたものと承知しております。この判断部分は判決理由中の判断でございまして、政府としましては、このような場合については我が国において婚姻が有効に成立していないと考えていることに変わりはございません。
 この訴訟では夫婦同氏制度を定める民法七百五十条の位置付けが争点となりましたが、この規定の合憲性につきましては、これとは別の事件の特別抗告審で既に最高裁大法廷への回付がされており、今後改めて司法の判断が示されることが想定されます。
 法務省といたしましては、夫婦の氏に関する具体的な制度の在り方に関し、国民各層の意見、国会における議論の動向や司法の判断を注視しながら検討を進めてまいりたいと考えております。
○高良鉄美君 いずれにしても、今、最高裁の判断を注視するということでしたけれども、この判決が全く意義を持っていないというわけではなくて、今、暫定的にせよ、やはり有効であるということがあるわけですね。
 それは、今、判決に対して法務省が、行政機関がこの判決の中身を勝訴だということではあるんですけれども、やはり法の支配ということを考えますと、これ人権の問題ではないかと。法の支配の中身の人権の問題、それから憲法の最高法規性、さらには司法権に対する優越性の問題ですね、司法権の優越、あるいは適正手続と。こういった中身を常に法務省も、大臣の最初の所信の表明でもありましたし、内閣でも法の支配をこの国の中心として訴えているわけですから、この問題がやはり今回、次の質問にも関わってまいりますけれども、一つの人権の問題、あるいは適正手続、あるいは憲法の最高法規性の問題と関わりがあるということを申し上げたいと思います。
 少年法の改正案について次に質問したいと思います。
 五月六日の参考人質疑は、三人の参考人が少年法は有効に機能していると答弁され、改めて立法事実が脆弱であることが示されました。特に、法制審議会のメンバーだった橋爪参考人は、少年法が機能していることを認めた上で、選挙権年齢が引き下げられたこと、そして民法の成年年齢が引き下げられたことを法改正の理由として挙げられました。
 成年年齢の引下げについては多くの問題があり、沖縄の風として以前にも委員会質疑で問題提起をしましたが、審議当時に懸念は払拭されませんでした。そこで、本日は対政府質疑の初日になりますので、まず法改正の根拠とされた成年年齢の引下げの問題について質問します。
 二〇〇九年の法制審議会は、十八歳への引下げを適当としながらも、引下げの法整備を行うには、若年者の自立を促すような施策や消費者被害の拡大のおそれ等の問題点の解決に資する施策が実現されることが必要であるとしていました。
 そこで、若年者が消費者被害に遭わないようにするため、実践的な消費者教育がどのように行われ、若年者が消費者被害を受けた場合の救済体制がどのように整備されているのか、消費者行政への国の支援の充実が行われたのかどうかを消費者庁の参考人にお伺いします。
○政府参考人(片岡進君) お答え申し上げます。
 近年、若年者における情報商材などの消費者被害が増加していること、それから、来年成年年齢が引き下げられるということから、消費者庁といたしましては、若年者の消費者被害を防止することは最重要課題の一つであるというふうに考えているところでございます。
 このため、これまで、消費者の自立を促し、また消費者被害を防止するための消費者教育の充実、被害救済としては、主として若年者に発生している被害事例を念頭に置いた消費者契約法の改正等の制度整備や厳正な法執行、また消費者被害の相談を受ける消費生活相談窓口の充実、周知などに取り組んできたところでございます。
 地方消費者行政に対する国の支援についてのお尋ねがございましたけれども、地方公共団体における若年者への消費者教育の推進につきましては、平成三十年度以降、地方消費者行政強化交付金を通じた支援を行ってきているところでございまして、令和二年度には全国で二百を超える事業に対して交付金を交付して支援をしているところでございます。
 また、消費者教育の取組としましては、成年年齢の引下げをも見据えまして、平成三十年二月に若年者への消費者教育の推進に関するアクションプログラムを関係四省庁で取りまとめて、契約成立時期等について学ぶことができる教材であります「社会への扉」などを活用した実践的な消費者教育が全国全ての高校で行われることなどを目標に掲げて集中的に取組を行ってきたところでございます。
 また、令和三年度は成年年齢引下げ前の最終年度に当たりますことから、更に取組を強化するため、成年年齢引下げに伴う消費者教育全力キャンペーンを、関係四省庁の連携の下、去る三月に決定をしたところでございます。
 消費者被害の最新の状況にも留意をしながら、若者に対して消費生活上の契約や家計管理等に関する教育、また消費者被害防止に資する教育の取組を更に強化し、関係四省庁が連携をして地方公共団体、大学等、関係団体、それからメディアなどを巻き込んだ重層的な取組を行っていくこととしているところでございます。
○高良鉄美君 取組の数々を御紹介いただきましたけれども、これ来年施行であるということを考えますと、もう既に一年は切っていると。そういう中で、何年か掛けて取り組んできたということがあるわけですけれども、これは地方自治体も巻き込んでいろんなキャンペーンをなさっているということでした。
 今回、少年法改正に関しましては、これから議論していくだけじゃなくて、本当にもしその十八歳、十九歳の問題というのを取りかかるのであれば、これ相当な覚悟を持ってこのようなキャンペーンでしっかりやらないといけないということも含まれておると思うんですね。しかしながら、この中身を、やっぱり来年施行される際にどれぐらいこのとおりのキャンペーンがうまくいっているのかと注視したいと思います。
 次に、養育費について。
 実務において、特別の事情がない限り養育費の支払終期は二十歳に達する日の月までとするのが一般的であり、成年に達した子については養育費の支払を受ける対象になっていないため、成年年齢が十八歳に引き下げられるということになれば、これは養育費の支払終期が早まるんじゃないかと、そういう懸念がありました。
 また、成年年齢引下げの結果として、大学は成年になった者が行くところ、まあ十八歳以上になりますから、であり、監護している親が裕福であるか、あるいはもう自分の力でお金を調達できた者が行くところというような風潮が生まれ、養育費としての大学の学費を分担すること自体がなくなってしまうんじゃないかという懸念もありました。
 養育費の支払終期が早まるということについて法務省としてどのような取組をなされているか、お伺いします。
○政府参考人(小出邦夫君) お答えいたします。
 平成三十年の民法改正により成年年齢が十八歳に引き下げられるわけでございますが、親子の扶養義務の有無、これは子が成年年齢に達しているか否かと直ちに連動するものではございません。
 したがいまして、子が十八歳の成年に達した後であっても、学生であるなど経済的に自立することができない場合には、子を監護していない親は引き続き養育費の支払義務を負うと考えられるため、養育費の支払の終期は必ずしも子が十八歳の成年に達したときとは言えないと解されるところでございます。
 この趣旨を明確にするため、法務省では、離婚届書に設けられている養育費等に関する取決めの有無のチェック欄に付した説明書きについて、平成三十年にその記載内容を見直し、成年年齢の引下げと養育費の支払の終期が連動するかのような誤解が生じないように工夫をしたところでございます。
 具体的には、養育費の分担の取決めに係るチェック欄におきましては、従前は未成年の子がいる場合としていた記載を経済的に自立していない子と改めまして、さらに、その直後に括弧書きで未成年の子に限られないと、その旨を記載しまして、成年に達した後も養育費の支払義務を負う場合があること、これを明確にしたところでございます。
 この見直しは法務省ホームページでも周知しているほか、子供がいる夫婦が離婚をする際に考えるべき内容等を説明した法務省のパンフレットにおいてもQアンドAの形式で説明しているところでございます。
 この養育費の支払の終期の点も含めまして、養育費など子の監護に必要な事項については、子の利益を図る観点から父母の離婚時に必要な取決めがされることが望ましいと考えられます。
 そこで、法務省では、離婚を考えている方に向けた専用のウエブページを開設したり、自治体の戸籍窓口におけるパンフレットの配布等に取り組んでまいりました。さらに、養育費等の取決め促進の観点から、本年四月、離婚届書の標準様式を変更し、養育費について公正証書による取決めの有無の記載欄を追加したほか、相談先である法テラスに関する情報提供の追加をし、またチェック欄の趣旨等の説明動画を提供し、QRコードからアクセスできるようにするなどしたところでございます。
 法務省といたしましては、委員御指摘の養育費の支払の終期の点も含めまして、引き続き、離婚を検討している方などに向けて必要な情報を適切に提供することができるよう、広報、周知にしっかりと取り組んでまいりたいと考えております。
○高良鉄美君 成年年齢の問題とは別の形で経済的自立というのが一つのメルクマールというんですか、基準になっているとは思うんですけれども、やはりそういった面でいいますと、子供の利益を尊重するというようなことの視点も加わって、随分配慮された形で、この成年にこだわらずもう一つの視点から取り組んでいるということについてはやっぱり重要なことかなと思っております。
 厚生労働省にお伺いします。
 厚生労働省が四月三十日にまとめた社会的養護経験者の調査結果では、高校を卒業すると経済的自立がしていなくても養護施設から出ていかなければならないという十八歳の壁があることが分かりました。十八歳は大人だから大人と同じ責任を負うべきだという考えがある一方、少年たちは未熟で支援や保護が必要という声もあります。
 厚生労働省は、社会の扉を開いて困難に直面した十八歳にどのような支援を行っているのか、伺います。
○政府参考人(岸本武史君) お答えいたします。
 児童福祉法におきましては、児童養護施設等に入所する社会的養護が必要な子供の年齢を、原則は十八歳としつつ、必要に応じ二十歳まで延長できることとしております。また、退所後も二十二歳の年度末までの間、児童養護施設に居住できることとする社会的養護自立支援事業を実施しているところでございます。
 これらの年齢要件につきましては、令和四年四月の成年年齢見直し後におきましても、対象となる方々への支援の必要性を考慮いたしまして維持をするということにしております。この点につきましては、これまでも局長通知や全国会議等を通じて周知を図ってきたところでございますが、令和四年四月に施行を控えていることを踏まえまして、今年度中に改めて自治体や施設関係者等に対して周知を行いたいと考えております。
○高良鉄美君 先ほどの法務省の捉え方、それから厚生労働省の捉え方を含めて、成年年齢に達しても未成熟なりあるいは自立をしていないという問題があって支援が必要だということでは、そういう認識の中で取り組まれているということが分かりました。特に厚労省の方では、年齢も十八を超えているからということではなくて、やはり二十歳まであるいは二十二歳までと、そういう視点からきちんと経済的な部分での支援ということを考慮しているということを改めて認識をいたしました。
 最高裁にお伺いしたいと思います。
 少年法改正については、少年事件の現場に近い方ほど反対あるいは懸念の声が上がっております。先日も大山参考人から、少年院の教官の親身の接し方、そういったような存在が大きかったというような話がありました。また、家裁の調査官からも、現場ではもう危惧の声というのがあります。
 昨年の五月二十六日には、少年事件を担当したことのある元裁判官百七十七人が法制審議会に意見書を出されました。また、裁判官や弁護士、法学者などで構成する日本女性法律家協会の皆さんもいち早く意見書を出されました。三月十六日の委員会でも申し上げましたけれども、少年犯罪を防ぐのは厳罰主義ではないと、事件の深層を探り少年を立ち直らせることという少年法の理念がゆがめられることへの懸念だったと思います。
 二〇一八年十一月二十二日の法務委員会で「家庭裁判所物語」の受け止めを尋ねられた最高裁の手嶋家庭局長は、感銘を受けましたと答弁されました。何に感銘を受けられたのか、再度お伺いしたいと思います。
○最高裁判所長官代理者(手嶋あさみ君) お答え申し上げます。
 かつて御答弁させていただきましたとおり、家庭裁判所創設の経緯やこれに関わった諸先輩の思いに深い感銘を受けた、その思いは今も変わっていないところでございます。
 家庭裁判所は、家庭や親族間の問題が円満に解決され、非行に及んだ少年が再び非行に及ぶことがないよう、事案に応じた適切、妥当な措置を講じ、将来を展望した解決を図るという理念に基づいて創設された裁判所でありまして、こうした理念が「家庭に光を、少年に愛を」という家庭裁判所創設当時の標語にも込められているというところでございます。また、この家庭裁判所の創設に関わられた諸先輩が戦後の非常に厳しい状況の中でこの理念を掲げて奔走、奮闘されたということに非常に感銘を受けたところでございます。
 そのような意味でも、今般の法改正の審議、検討に際して、現行の少年法の下における家庭裁判所の調査、審判等の手続について、少年の再非行防止と立ち直りに有効に機能しているという御指摘をいただいてきていることを大変感慨深く受け止めているところでございます。
 法制審におきましても、現在の家庭裁判所における実務の運用について十分に御説明の機会をいただき、同様の現状認識の下で御議論いただいたものというふうに承知をしております。
 その上で、今般の少年法改正の当否につきましては、基本的には立法政策の問題であるというふうに承知をしているところでございまして、裁判所としては意見を述べる立場にはないものというふうに考えておりますが、いずれにせよ、改正法が成立した際には、国会での御審議や法制審議会での議論も踏まえて、少年の再非行防止と立ち直りに向けて一層の適切な運用に努めてまいりたいというふうに考えております。
○高良鉄美君 局長の今の御答弁、感銘を受けた中身を非常に知ることができました。「家庭に光を、少年に愛を」というのは現在も本当に引き継がれていると私は信じております。
 やはり法制審の質疑等々の中にこの家庭裁判所というのがどういう位置付けになるのかということを考えますと、立法政策の問題だというお答えをしましたけれども、私は、裁判所は当事者だと思うんですよ。もう一番中心だと思うんです。この家庭裁判所ができてきた過程というのを、そのプロセスを考えますと、これまでなかったものなんですね。それはもう戦前にはなかったもの、それで裁判所という形になった、少年審判所がですね。
 こういったところの本当の理念というのを考えますと、やっぱり家庭裁判所にしても、先ほど一番最初に言いました法の支配からいっても、裁判所の役割って非常に重要だと思うんです。だから裁判所は、私は、以前の少年法改正のときには裁判所を挙げて法務省に対して意見書を出していますよね。それも、政治の問題だ、立法政策の問題だというよりも、やはり裁判所がどういうふうな姿勢で向かうんだということを強く強調されていたというふうに私は記憶をしております。
 今回、少年法という法の場合に、まあ法という字のそもそもの起源は、水の中に去ると書きますけど、これは島流しのことなんですよ。水を周りにやって真ん中から去っていったらここだけで、もう刑罰が法だったわけですよ。しかし、今の時代は、刑罰が法ではなくて、人権保障が法なんですね。そういう取組をしないといけない。今、漢字の起源からいっても、これはもう相当、紀元前かあるいはそれぐらいの時代にできた考え方なんですよ。やっぱり、基本的人権の尊重というのがあるのはやはり法の支配の根本ですので、そこに向かって是非家庭裁判所が、最高裁が私は頑張ってほしいなと思います。
 最後に一つだけ言っておきますと、今回のこの刑法の問題というのが、一般的な成人の刑法の問題というと、憲法でいうと三十一条から四十条まで、刑事被告人の権利あるいは被疑者の権利というのがいろいろ手続も置いて入っていますけれども、少年法というのはそれとは違うんですよ。教育の問題であるということになると、これ憲法二十六条の問題なんです。児童福祉等も最初にいろいろありましたけれども、児童福祉というのは二十五条なんですよ、福祉の問題で。そうすると、全く違う法形態のところから同じようにやろうと、だから、十八だからというこの問題とは全く別なんですね。だから、そこの部分を捉えていくというのが、私たちは法の支配を考えるときに、本当にこれが大事なことなんじゃないかなと私は思います。
 そういうことを訴えながら、今回、これで終わりたいと思います。ありがとうございました。