国会質疑 Interpellation

2023年6月6日 参議院 財政金融委員会、外交防衛委員会連合審査会

質問内容

<参考人質疑>

○我が国の防衛力の抜本的な強化等のために必要な財源の確保に関する特別措置法案  

参考人

・慶應義塾大学法学部教授 細谷雄一さん

・防衛ジャーナリスト、獨協大学非常勤講師、法政大学非常勤講師 半田滋さん

議事録

第211回国会 参議院 財政金融委員会、外交防衛委員会連合審査会 第2号 令和5年6月6日

○高良鉄美君 沖縄の風の高良鉄美です。
 今日は、細谷参考人、半田参考人、本当に貴重な意義深いお話をいただきました。改めて感謝を申し上げます。
 私は、まず、積極的平和という言葉についてお伺いしたいと思います。
 安倍内閣が掲げた積極的平和主義とそれからノルウェーのヨハン・ガルトゥング博士が提唱された積極的平和とは全く似て非なるもの、異なる考え方だと思います。
 細谷参考人、半田参考人に伺います。お二人がお考えになる積極的平和とはどのようなものなのか、それぞれお答えいただきたいと思います。
○参考人(細谷雄一君) 高良先生、積極的平和についての御質問いただきまして、ありがとうございます。
 国際政治学者として、私、大学の講義でもガルトゥング、ヨハン・ガルトゥングの積極的平和について触れておりますし、猪口邦子先生も「戦争と平和」の中で、御本でもたしか触れていらっしゃったと思います。
 この積極的な平和というガルトゥングの概念はかなり広く浸透した概念であって、申し上げるまでもなく、消極的平和という単に戦争がない状態だけではなくて、様々な抑圧、人権侵害、貧困というものをなくしていくと。おっしゃるとおり、確かに安倍政権の積極的平和主義に基づく国際協調主義、これの積極的平和主義の概念とは必ずしも全く同じものではございませんが、一方で、例えば今ウクライナで起きているのは、まさにこの積極的な平和ということを考えたとき、ただ単に、例えばウクライナがロシアに占領されて戦争が終わればいいということではないんですね。仮にこれでもしもロシアに占領されたとき、占領地域で多くの人権侵害というもの、あるいは子供が連れ去られる、これ大きな国際司法裁判所でも問題となっております。
 したがって、私は、今やはりガルトゥングの積極的平和というものが、このウクライナ戦争が起きたことによって、単に戦闘を停止するだけではなくて、そこにおいてきちんとウクライナの人たちの人権というのが擁護される、あるいはロシアが行っているような子供を連れ去るというようなことをしないようにする、そういった意味で、確かに従来以上に私はこの概念というものが今の世界では重要になっている。同時に、そのことは従来よりもまた実現が難しくなっているということ、そのこともまた、恐らくは日本の国家安全保障戦略の中で、今、高良先生おっしゃったとおり、安倍政権における積極的平和主義とは確かに概念が重なるものではないかもしれませんけれども、ガルトゥングの述べる積極的平和主義というものも恐らく日本の安全保障戦略の中でもより深く組み込んでいく必要があるんだろうと考えております。
○参考人(半田滋君) ヨハン・ガルトゥイング博士の積極的平和主義というのは、まさに沖縄にこそふさわしいものだというふうに私は考えています。つまり、台湾有事になれば真っ先に戦場になりかねないのが沖縄だと思います。これを何とか食い止めるために、今、ある意味、安倍首相の提唱した軍事力を用いた積極的平和主義に基づいて、南西諸島の軍事要塞化が今どんどん進んでいるんだと思います。
 しかしながら、要塞化を進めるというのは、結局、その地域に住む住民との関わり、この関係において、さきの大戦のときのような県民に大きな被害が出るという可能性も同時に考えなければいけないというふうに思います。
 今年の三月に、政府が主催をして、そして沖縄県も関係して、宮古、石垣、与那国などを巻き込んだ離島の避難を図上で行う図上訓練が行われました。五市町村で合計十二万人を安全に九州に運ぶのに六日間あれば足りると、あたかも事が簡単であるかのようなことを見せたわけですが、大事なのは、沖縄本島の避難が今回抜けていたんですね。沖縄県全体、沖縄本島にこそ避難が必要な米軍基地があり、自衛隊施設がそろっているわけですから、実際のところ、沖縄県民百四十六万人を同時に避難させるということを考えなければいけないわけですね。このときの数式に基づいて百四十六万人を何日間で九州に運べるか計算したところ、七十三日間掛かるんですね。七十三日間もの間、皆さん家でじっとしていてくださいと、そんなことは通じるわけはないわけです。
 だとしたらば、まさにその積極的平和主義の精神に基づいて、これをただじっと黙って平和を待つのではなくて、働きかけによって、対話、そして貧困の解消、人権の重視といったことを実現していかなければ、真っ先に沖縄が犠牲になる。だからこそ、沖縄にこそ積極的平和主義を実行する責務というものが政府にはあるというふうに私は思います。
○高良鉄美君 ありがとうございます。
 今、人権の関連がすごくありましたけれども、もう一つ考えられるのが、私は、議員になってずっと、対する全ての閣僚の方に法の支配についての認識をずっと尋ねてきたわけです。それ、法の支配の内容である人権の保障、そして憲法の最高法規性、司法権の重視、適正手続、そのいずれもがないがしろにされているんじゃないかという危機感があるからそういう問いをずっとしてきたわけですね。
 外交防衛に関して言えば、沖縄県民の、私はとりわけこの適正手続を不適正に使われているんじゃないかと、あるいは法の支配に対する人の支配がもうまかり通っているんじゃないかと、そういうふうに思っています。
 半田参考人に伺いますが、今回の防衛費の大幅増額はこの適正手続の面からどのような問題があるとお考えでしょうか。
○参考人(半田滋君) 確かに、おっしゃるように、沖縄における適正手続の欠如というのは辺野古の新基地建設を見ると明らかだと思います。沖縄県の中の住民投票で圧倒的多数が辺野古新基地に反対をしているにもかかわらず工事が強行され続けている、そして大浦湾の軟弱地盤については、しばらくこの事実を隠した上で工事を浅瀬の方から埋め始めてしまったということ、これらは全く適正手続を欠いているというふうに言わざるを得ないと思います。
 今回のGDP比の二%にまで増えていくというような防衛費について言えば、これまでの五年間の防衛費、中期防衛力整備計画と以前は言っていました。今回、呼び名が変わって防衛力整備計画に変わりましたけれど、これまでは大体二十五兆円から二十六兆円という枠の中で、五年で割れば年間五兆円ちょっとぐらいの予算の中でやりくりをしなければいけない。その中で、無駄をそぎ落とした上で必要な、真に必要なものを買うということを繰り返してきたわけですね。
 ところが、今回、突然十七兆円も上乗せされたことによって非常に雑駁な予算の使い方が出てきたんではないか。そうなってくると、これは、今日お話ししているように、本当に真に日本の防衛に役に立つものであればそれは仕方ないにしても、予算だけを与えてその中を埋めなさいみたいな形になったことにより、適正手続と到底言えないようなものというのが出てきてはしないかという心配があるわけですね。そこを精査していかなければいけない。
 また同時に、今日お話ししているようなイージスシステム搭載艦のような、これどう考えても、これ将来完成したとしても、これ巨大な鈍重な船ですから、このイージス艦を守る、イージスシステム艦を守るための船を造らなきゃいけないと。今回の国家防衛戦略で見ますと、イージス艦は今の八隻から十隻に増えるんですね。十隻に増える上に、さらにイージスシステム搭載艦が増えると。これ、ここまで本当に必要なんだろうかと。また、船に載せるようなものかどうかということもちゃんと適正手続に基づいて精査する必要があるというふうに思います。
○高良鉄美君 ありがとうございます。
 半田参考人にはもう一度伺いますけれども、今ちょうど言われた、あるいは先ほどからありましたけれども、資料の政策提言に、戦争を確実に防ぐためには抑止とともに安心供与が不可欠であると書かれています。
 実は、私は三月十七日の外交防衛委員会で、この安保三文書は、抑止の視点が強い一方、安心供与の視点がないのではないか、国家防衛戦略と防衛力整備計画が抑止の発想で書かれるのは分かるわけですけれども、国家安全保障戦略で安心供与という視点がないのは大きな問題だと、こう指摘したところなんです。
 内田雅敏弁護士が、台湾問題が日中間の四つの基本文書でどう語られてきたかを、「飲水思源 以民促官」というそういう冊子がありますけれども、そこに分かりやすくまとめられています。これを読んでも、中国にとっての安心供与は、台湾独立を日米が支持しないと表明し実践することだと思いますが、今回の国家安全保障戦略では、台湾に関する基本的立場に変更はないと述べながら、台湾独立を支持しないと明言するのを避けました。台湾の独立を支持しないと表現するのではなく、一九七二年の日中共同声明から今日までの対応は一貫していると、変わっていないという説明の仕方を維持していくことが重要であると政府は答弁しています。
 仮に今回の防衛費の大幅増額との関係で安心供与を明確にしないということがあれば、日本国民に対しても中国に対しても極めて不誠実だと思いますが、半田参考人は政府が明確にしない理由を何だと思われているでしょうか。
○参考人(半田滋君) それは、やはりアメリカに対する配慮があるのかなと思います。
 アメリカは、米中の国交正常化の際に、中国が主張する一つの中国に対して、その発言は認識をするということを言って、非常に曖昧な態度にとどまっています。日本政府もそういった点では余り変わらないというところです。特にバイデン政権になって、台湾の抱え込み、台湾への接近というものが目立つようになってきたと。そうすると、今アメリカがやっているようなことに水差すような表現というのは好ましくないではないかという、そういう考えもあるのかもしれません。
 本来であれば、先生おっしゃるように、台湾の独立は支持しないという一文を入れても意味は同じなんですが、その言葉があるかないかということで、受け取る側、つまり中国側や台湾側、そしてアメリカの受け止め方が異なるわけですよね。ですから、安心供与につながらないというのは全くそのとおりで、特に中国に対して安心を提供していくということにはならないと思います。
 日本は、憲法の条文は一言一句変わっていないのに、今回、敵基地攻撃能力の保有を決めて、そして、もう既に南西諸島に置かれている一二式地対艦誘導弾、この能力向上型も開発を、そして量産化を決めたわけですから、中国から見れば、日本は憲法も何も変わっていないはずなのに、なぜ急に好戦的になってきたんだろうと、まあ好戦的と言うのはちょっと言い過ぎだとすれば、攻撃的兵器を向ける可能性が出てきたんだろうというふうに不思議に思うだろうと思うんですね。ここで、やはり安心供与ということがだからこそ本来は必要だったんだろうと、そんなふうに思います。
○高良鉄美君 今、安心供与ということで、同じ質問になりますけれども、細谷参考人の方に、この中国への安心供与という点では、お考えをお伺いします。
○参考人(細谷雄一君) 私は、今の御質問に対して、国家安全保障戦略では一定程度安心供与の文言が入っているというふうに見ております。
 例えば、これは国家安全保障戦略ですが、日中両国は、地域と国際社会の平和と繁栄にとって、共に重要な責任を有する。我が国は、中国との間で、様々なレベルの意思疎通を通じて、主張すべきは主張し、責任ある行動を求めつつ、諸懸案も含めて対話をしっかりと重ねて、共通の課題については協力をしていくとの建設的かつ安定的な関係を構築していく。あるいは、日中間の信頼の醸成のため、中国との安全保障面における意思疎通を強化する。加えて、中国との間における不測の事態の発生を回避、防止するための枠組みの構築を含む日中間の取組を進める。
 ほかにも、実は比較的、中国に対しては一方的な強硬な姿勢を取るというよりは、これは明らかに私は、やはりアメリカの国家安保戦略、昨年出た文書とは大分トーンが違うというふうに見ております。
 日本にとって、中国は最大の貿易相手国であるだけではなくて地理的にも非常に近接しておりますので、私は、やはり日本は抑止だけではなくて安心供与というものも一定程度考慮している。しかしながら、それを中国はどう受け止めるかというのはまた別の話だと思いますので、恐らくそれが文言だけと見るのか、あるいはそれが誠実な姿勢で取り組んでいるかということは、中国側は日本の行動を恐らく見ている部分もあるんだろうとは思っております。
○高良鉄美君 ありがとうございます。
 やっぱり沖縄からすると、もうすぐ目の前に、与那国からもそうでしょうけれども、これだけ自分のところの近くにあって、かつ今沖縄の観光というもの、あるいはもう生活そのものが大きく、逆に言うと、余り軍備に力を入れ過ぎると、中国の思いみたいなものも本当に伝わっているのかなというのがあって、やはり不安が非常に強いということを申し上げまして、私の質疑を終わりたいと思います。
 ありがとうございます。