2020年5月26日 参議院 法務委員会 一般質疑
質問内容
・検察庁法改正案について
議事録
第201回国会 参議院 法務委員会 第8号 令和2年5月26日
○高良鉄美君 沖縄の風の高良鉄美でございます。
新型コロナウイルス感染防止対策に全力を傾けるときに、政権が混乱に乗じて検察庁法改正を行おうとしたことが今批判にさらされ、メディアも連日大きく報じました。
一方、本土では大きく報じられていませんが、沖縄県では、辺野古沿岸部に軟弱地盤が広がっている問題で、政府は、四月二十一日、埋立ての設計変更を沖縄県に申請しました。沖縄県は、その前日の二十日、感染急増を受けて、県独自の緊急事態宣言を出したばかりでした。県を挙げてこの感染防止対策に当たろうというときに、政府がこのような負担増を強いるような暴挙をしたということを強く抗議して、質問に入ります。
三月二十四日、もう二か月になりますが、法務委員会で、法の支配と検事長の定年延長について伺いました。森法務大臣に、ミニスター・オブ・ジャスティスということで、ジャスティスをどのように理解されているかということを伺ったところ、法務行政を通じて正義が保たれる公正な社会の実現に向けて真摯に取り組むと、そういう答弁をされました。残念ながら、検察庁法改正案は、今この正義や公正さが問われ、成立断念に追い込まれたと言わざるを得ません。
そこで、この問題について伺います。
検察庁法二十二条は、検事総長六十五歳、その他の検事長は六十三歳で退官することを、一九四七年、これは憲法が施行された年ですけれども、そのときの立法時にそういうふうに決めました。それは、強い捜査権限があり、公訴権を持つ唯一の存在だからこそです。検察庁法四条では、検察官を公益の代表者として、強大な存在がその職に居座り続けないように定年を設け、自動的に退職する仕組みにしました。これが権力分立やその他の司法権の独立との関連が、整合性が取れるわけです。
ところが、安倍内閣は、黒川氏本人の定年延長のためにと言っていいと思いますが、検察官には定年延長は適用されないとする政府解釈を、政府見解を発しただけで、その変更を強行しました。この法解釈の変更は、単なる法の運用ではなく、政治権力を法で拘束するという立憲主義自体を骨抜きにするもので、違憲、違法の、法的、法運用だと言わざるを得ません。
検察は行政に属する組織ではありますが、検察官の職責について、森大臣の御認識をお聞かせください。
○国務大臣(森まさこ君) そもそも、検察官も行政組織に属しております。ただ、唯一の公訴提起機関であり、その職務執行の公正が直接刑事裁判の結果に重大な影響を及ぼしますので、検察の独立性が保障されているわけでございます。
その検察官の独立性とは、一般行政官と異なり、裁判官に準ずる身分の保障及び待遇を与えられているものでございます。検察庁法三十二条の二は、検察官の職務と責任の特殊性に基づいて国公法の特例を定めたものと規定をしております。この特殊性は国公法施行後も変わらないことから、検察庁法中、検察官の任免に関する規定を国公法の特例としたものでございます。
○高良鉄美君 今ありましたけれども、国公法の特例というだけじゃなくて、検察の職責あるいはその在り方、あらゆる司法権との関係ということがありました。
まさに、今回、公正あるいは公平、その検察官の職責ということで、法と証拠に基づいて正義を実現するということなので、まさに今、このことが問われているんじゃないかと思います。
中谷防衛大臣は、元防衛大臣は、五月十八日のインターネット番組で、黒川検事長の定年延長を法解釈で決めた閣議決定について、与党に相談なく突然決まったということを明らかにしています。与党、政府の手続に瑕疵があったのではないでしょうか。
手続が適正に行われていたと言えるのか、あるいは適正に行われたと誰もが判断できる答弁を大臣に求めます。
○国務大臣(森まさこ君) 国家公務員一般の定年の引上げに関する検討の一環として検察官についても検討を進める過程で、検察庁法を所管する法務省において必要な検討を行った上で、令和二年一月十七日から同月二十四日にかけて関係省庁との協議を行い、異論はないとの回答を得て解釈を改めたものでございまして、有権解釈として、一義的に所管省庁である法務省において行ったものでございます。
このように、適正なプロセスを経たものである上、経たものでありますので、瑕疵はないと考えます。
○高良鉄美君 今、適正という言葉が何度か使われましたけれども、適正の内容を聞いているわけですけれども。
適正に行われたというふうに、今国民が聞いて、ああ、そう、適正にやりましたですねと思うという問題が今まさに問われておるわけです。そういった点で少し、じゃ、その適正に行われたこの法案あるいは解釈の問題が、今廃案と、もう取り下げるといったところになっているわけですから、この辺の問題も是非考えていただきたいと思います。
時間の関係でどんどん進めていきますが、森大臣は、余人をもって代え難いとして黒川検事長の定年延長を行いました。先ほどから何度か出ておりますけれども、危機管理として、余人をもって代え難いということがあってはならないのが公務員、特に検察官に言えると思います。病気や事故で職務遂行ができなくなることがあるため、余人に代えても職務に支障を来すことがないようにするのが当然だと思いますけれども、政府参考人にお伺いします。
○政府参考人(西山卓爾君) 当時の黒川検事長につきましては、検察庁の業務遂行上の必要性に基づき、引き続き勤務させることとしたものでございます。
委員御指摘のとおり、組織として緊急時の危機管理としての体制づくりは当然必要であると考えられますが、他方で、特定の職員について定年後も引き続きその職務を担当させることが公務遂行上必要な場合に、定年制度の趣旨を損なわない範囲で定年を超えて勤務の延長を認めるとの勤務延長制度の趣旨は検察官にもひとしく及ぶと考えられることなどから、国家公務員法第八十一条の三及び人事院規則一一―八第七条に基づいて検察官の勤務延長を行うことは現行法上認められるものと考えております。
○高良鉄美君 今、法の解釈ということでありましたけれども、そういう場合が全くゼロではないかと思いますけれども、その司法権も含めてですね、公正さという場合には、外から見ておかしなことが少なくともないように見えるということは、少なくとも外見的にも大事なことなんです。どうしてこの場合だけ、あるいはこれまでやったことがないようなことが起こってくるのかということになると、この余人をもって代え難いということに対してですね、今国民の声というのはそういうことがあるんじゃないかと思います。
それでは、次ですけれども、当時の判断のお話をしたいと思います。
五月二十二日の衆議院法務委員会で、森大臣が当時の判断は正しかったと答弁されていますけれども、百歩譲って仮に正しかったとしても、法律家も過ちを犯します。今回のように不適切な行動を見抜くことができなかったのですから、今後も同じことはあり得るのではないでしょうか。有能であり、余人をもって代え難いと人に委ねて、特定の人にですね、制度を変えるというのも危うさが露呈をしたと言わざるを得ませんが、今後、検察官の役職定年制はどうあるべきだと考えるのでしょうか。検事でもある政府参考人に伺いたいと思います。
○政府参考人(川原隆司君) お尋ねの役降りの特例は、国家公務員法の改正案に一般の公務員について役職定年制が新設されたのに併せて検察庁に新設するものでございます。これは、検察官について勤務延長制度の適用があるのであれば、検察官の役降りについてもその特例を設ける必要があると考えられたものでございます。
こういった今回の改正法案の内容は黒川氏の人事とは関係ないものでございますが、この法案が成立した暁には、その運用については当然適切に行われるべき必要があるものと考えております。
○高良鉄美君 一番最初の質問で、司法との関係、あるいはその憲法との関係、権力分立の関係、そういったことから一般の国家公務員ではないと、大きく広げれば公務員かもしれませんが、そういった特別な憲法上の権力関係があるわけですね。だから憲法の施行と同時にこういう法律が作られて、自動的にこの権限の大きさに比較してこういった規定があるわけです。そういったのを一般の国家公務員と同じように考えて、ああ、この際にはこうしましょうというのが果たして通るのかどうかという問題です。
ですから、先ほどから賭博罪とかいろいろ出てきています。これも本当に非常に大きな問題で、あるべき問題じゃない、本当に非難されるべき問題ですけれども、その前にも大きな問題というのがあるわけです。
この関連でいいますと、五月十五日、元検事総長や検察OBが、森大臣に検察庁法改正案の撤回を求める意見書を提出しました。提出後の記者会見で、東京高検元検事の清水氏は、定年延長の閣議決定について、このときにはまだ賭博の問題とかそういうものは出ていません、本来は法改正を経て行うべきことで、閣議で決めたことを立法権の侵害に、閣議で決めたことは立法権の侵害に該当する、三権分立という近代政治の基本原則に違反するおそれがある、明らかに憲法違反だと厳しく指摘しました。これ、元検察OBです。元検事総長です。これ、出してきたわけですね。
元検事総長らのこういった指摘を大臣はどういうふうに受け取っていらっしゃるでしょうか。
○国務大臣(森まさこ君) まず、余人をもって代え難いというような御指摘についての私の正確な言葉としては、当時、東京高等検察庁管内において遂行している重大かつ複雑困難事件の捜査、公判に対応するためには、同高等検察庁検事長黒川弘務の検察官としての豊富な経験、知識に基づく管内部下職員に対する指揮監督が必要不可欠であり、同人には、当分の間、引き続き同検事長の職務を遂行させる必要があると述べておりましたので、確認をさせていただきたいと思います。
また、今の御質問でございますが、法令の解釈は、当該、高良委員も御存じだと思いますが、当該法令の規定の文言、趣旨に即しつつ、立案者の意図や立案の背景となる社会情勢等を考慮し、また、議論の積み重ねのあるものについては全体の整合性を保つことにも留意して論理的に確定されるべきものであるが、従前の解釈を変更することが至当であるとの結論が得られた場合には、これを変更することがおよそ許されないというものではないと考えられております。
社会経済情勢の多様化、複雑化に伴い、犯罪の性質も複雑困難化する状況下において、検察官への勤務延長制度の適用について改めて検討したところ、同制度の導入当時の検討の過程や検察官について適用除外とした理由等について現時点で必ずしも明らかにされていないこと、また、検察庁法、検察官について勤務延長を認めない旨の特例は定められていないこと、検察庁法で定められる検察官の定年による退職の特例は定年年齢と退職時期の二点であり、定年により退職するという規範は一般法たる国家公務員法によっているというべきであること、勤務延長制度の趣旨は検察官にもひとしく及ぶべきということであることなどからして、検察官の勤務延長について、一般法である国家公務員法の規定が適用されると解釈されました。
また、個別の事案については先ほども申し上げましたけど、勤務延長の解釈変更とは別でございます。
○高良鉄美君 これまでもいろんな形でこの問題というのは出てきたと思いますけれども、今、国民の中での問題、あるいはいろんな御意見ありますけれども、この検察庁のOBあるいは元検事総長、こういったことがなぜああいう声明を出したのかですね、そういったことを考えると、多くの側面において、憲法違反の問題あるいは立法権の侵害の問題、そして一緒に固めてやるべきなのかどうかという問題も含めて、そこが問われていると私は思っております。
私は、何度も、所信の質疑のときにもそうでしたけれども、森大臣に法の支配について、権力を法で拘束することによって国民の権利、自由を擁護することを目的としているので、ここでいう法は形式的な法律ではなく、様々な基本的人権や基本的価値を含む内容が合理的な法を指すと答弁されました。私は、これ、非常に感銘を受けました。しかし、国民は、今回の定年延長の問題を法の支配から外れた人の支配じゃないのかと、先ほどからずっと答弁の中ではいろいろおっしゃっていますけれども、こういう疑念を持たれているわけです。
そして、検察庁のOBは、フランス絶対王政時代のルイ十四世の朕は国家なりという言葉を出したり、あるいは、ジョン・ロックの「統治二論」に記されている法が終わるところ、暴政が始まると、こういったような引用もして警鐘を鳴らしましたけれども、検察トップであったOBさえもこのような受け止めをしているということについて、政府参考人は先輩の懸念をどのように受け止めていらっしゃいますでしょうか。
○政府参考人(川原隆司君) お答えを申し上げます。
解釈変更が許されることにつきましては、今大臣が答弁されたとおりでございます。
その上で、いろいろな方がいろんな御意見を持っているんだということを改めて認識いたしまして、各方面の意見に真摯に耳を傾けながら、私どもの考え方について丁寧に説明していく必要があると改めて考えたところでございます。
○高良鉄美君 是非こういうところも含めて真摯に考えていただきたいと思います。
今回、検察庁法改正案の成立は見送られましたけれども、仮に国民の理解が得られないまま法改正が行われていたとすれば、検察官が公正に職務遂行したとしても、政治権力に絡む捜査で証拠不十分とかで不起訴にすれば、もう国民は公正に行われたとは思わないんじゃないかと、政権にそんたくしたんじゃないか、多くの国民が疑うんじゃないかと思います。検察が職務を全うするために最も重要なことは、政治権力から独立していることです。
今回の定年延長は司法の独立をも脅かすのではないかという批判がありますけれども、この辺りはどういうふうにお考えでしょうか。
○政府参考人(川原隆司君) お答え申し上げます。
今般の検察庁法改正法案は、一般職の国家公務員の定年の引上げに合わせて検察官についても定年を六十五歳まで段階的に引き上げるとともに、役職定年制及びその特例として、特例と同様の制度を導入するなどするものでございまして、本来的に検察権行使に圧力を加えるものでなく、検察官の独立性を害さず、三権分立にも反するものではないと考えております。
○高良鉄美君 これは権力分立にも反するんじゃないかということを含めますと立法権の侵害にもなるんじゃないかという指摘をしましたけれども、検察庁法の所管はどちらでしょうか。法務省でしょうか。
○国務大臣(森まさこ君) 法務省です。
○高良鉄美君 ですから、委員会の中で、一般職の公務員はここでやりますといってこの公務員法と検察庁法を同じところに持ってきて、法務省の問題についてはなぜここでやらなかったのかという問題も出てくるわけですね。
そういった面から考えますと、最後に、私の、質問したいんですけれども、今回、黒川氏が辞任をしたということで、さらに訓告処分が行われましたけれども、二十二日の委員会では、森大臣は今後は調査しないというふうに答弁されましたけれども、これまで法律ができないという解釈をずっとされてきたことを、まあ途中で変えましたけれども、法律そのものは変えないでやろうというふうにしました。法改正を経て行うべきことを閣議で決めたというのは、立法権の侵害とも言えます。国会をこれだけ、つまり、上程されて、趣旨説明をして、審議をして、それをまた取り下げるというようなことまでして混乱させて、国会議員はもちろん、多くの国民がこの問題で納得しているというふうには思えません。また、一連の問題が明らかになったというのもまだ言えないと思います。
今後、こういった事態を招かないためにもしっかりとした検証が必要だと思いますけれども、大臣の意向、この検証の問題としてですね、今後どうするのか、ちょっとお伺いしたいと思います。
○国務大臣(森まさこ君) まず、検察庁法の国会での審議の在り方について御質問がございましたが、国会の審議の在り方は国会で決めることでございますので、私どもがお答えをすることはできかねます。
また、解釈の変更については、検察庁法の所管が法務省でございますので、有権解釈の第一義的な機関である法務省において解釈を変更したものでございます。
○委員長(竹谷とし子君) 高良鉄美君、お時間が過ぎております。
○高良鉄美君 はい。
ありがとうございました。
やっぱり、今後どうするかということも含めまして、先ほど法務・検察行政刷新会議のお話もありましたけれども、それを考えると、この大きな問題をどういうふうに検討していくかということに是非力を注いでいただきたいと要望しまして、私の質問を終わりたいと思います。