国会質疑 Interpellation

2024年4月23日 参議院 外交防衛委員会

質問内容

・欧州との経済的協力と安全保障との関係について

・米両政府間の指揮権密約について

議事録

第213回国会 参議院 外交防衛委員会 第10号 令和6年4月23日

○高良鉄美君 沖縄の風の高良鉄美でございます。
 今回の欧州との経済的協力と安全保障との関係についてお尋ねします。
 日米の関係でいえば、旧ですね、安保条約と現安保条約の大きな差というのの一つに第二条があります。そこには、経済的協力が書かれています。政府も従来、日米同盟の強化に関して、安全保障問題を強化していく上で、安全保障問題に関する直接の、失礼、関する連携の強化のみならず、経済関係を強化していくことが日米同盟の強化に当たり重要であると説明しています。
 今回の欧州との経済的協力というのは、我が国の安全保障に関連してEUあるいはNATOの諸国との関係で何らかの意味を持つものでしょうか。すなわち、EUとの経済的協力がNATOとは直接的に関わっている面があるのかという懸念があるからです。
 英国はEUを離脱していますが、日本はNATOに加盟している英国、そして、EUとNATOに加盟しているイタリアとの間に戦闘機技術協力を結んでいます。今回の日EU経済連携協定の改正によって、防衛産業に携わる企業を含む日本とEUの企業間のデータが、データ移転が促進されると理解しております。大半のEU加盟国がNATOに加盟していることを踏まえると、防衛産業に携わる日本企業のデータがEUに移転され、それが巡り巡って米国を含むNATOに行き渡り、NATOの軍事作戦に使用されるというおそれはないのでしょうか。
 今回のデータの流通に関するEUとの経済的協力と日英伊の戦闘機技術協力やNATOとの関連性はどのように捉えておられるのか、上川外務大臣に伺います。
○政府参考人(片平聡君) お答え申し上げます。
 本改正議定書は、一層安定したビジネス環境を構築する観点から、日EU・EPAにデータの自由な流通に関する規定を置くことについて欧州進出日系企業から強い関心が示されたことを踏まえ、日EU間で交渉を開始し、本年一月に署名に至ったものでございます。
 したがって、御指摘の日英伊の戦闘機開発協力やNATOとの関連性を念頭に置いたものではなく、本改正議定書の締結により御指摘のような懸念が生ずるものとは考えておりません。
○高良鉄美君 まあ、時期的なものもいろいろありまして、懸念も是非拭い去るようにいろいろお願いしたいと思います。
 次に、日米両政府間の指揮権密約について伺います。
 四月十日の衆議院財務金融委員会において、立憲民主党の原口一博議員が日米両政府の間の指揮権密約が存在する文書を配付されましたので、政府の皆さんは御存じかと思います。この公文書を発見したのは獨協大学名誉教授の古関彰一さんで、四十年ほど前にアエラで発表されています。配付した資料一は、矢部宏治さんのこの本です。(資料提示)「知ってはいけない 隠された日本支配の構造」というものに掲載されたものです。
 独立直後の一九五二年七月二十三日、当時の吉田茂総理と米軍の司令官が口頭で密約を結んだというもので、密約を結んだマーク・クラーク大将が本国の統合参謀本部へ送った機密報告書です。この資料一の方ですね。
 私は、七月二十三日の夕方、吉田氏、外務大臣の岡崎氏、マーフィー駐日大使と自宅で夕食を共にした後、会談をしたと書かれています。占領が終わったにもかかわらず、米軍の司令官が自宅に総理や外務大臣を呼び付けて極めて重要な会談をしていたことだけ見ても、日米がどのような関係であったかが分かります。
 私は、我が国の政府が有事の際の軍隊の投入に当たり、指揮権の関係について日本政府との間に明確な了解が不可欠であると考えている理由をかなり詳しく説明したとあります。つまり、戦争になったら、日本の軍隊、当時は警察予備隊は米軍の指揮下に入って戦うことをはっきり了承してほしいと申し入れているのです。
 吉田氏はすぐに、有事の際に単一の司令官は不可欠であり、現状ではその司令官は合衆国によって任命されるべきであるということに同意した。同氏は続けて、この合意は、日本国民に与える政治的衝撃を考えると、当分の間秘密にされるべきであるとの考えを示し、マーフィー大使と私はその意見に同意したと書かれています。独立から僅か三か月後の一九五二年七月二十三日、口頭での指揮権密約が成立したというものです。
 上川大臣に伺いますが、この吉田元総理の発言は事実でしょうか。発言の有無についてのみお答えください。
○国務大臣(上川陽子君) 御指摘の吉田元総理の発言が記載されている文書でありますが、これは米側作成のものでありまして、日本政府としてコメントする立場にはございません。
 その上で、御指摘のいわゆる指揮権密約についてでありますが、日米間でそのような合意は成立しておりません。
 一九七八年に策定されました日米の防衛協力のための指針におきましても、一九九七年ガイドライン及び二〇一五年に改定された現行ガイドラインにおきましても、日米両国の指揮権につきましては、自衛隊及び米軍は、緊密な協力の下、各々の指揮系統に従って行動する旨が確認されておりまして、この点は日米間で共通の認識となっているところでございます。
 したがいまして、日米安保条約の下におきまして、日米が共同対処する場合でありましても、両国の指揮関係というのは別個であるということが明確になっているところでございます。
○高良鉄美君 この文書の中では合衆国というのがありますけれども、指揮権密約は存在しないという立場でしょうけれども、クラーク・吉田合意後に無効となったということでしょうか、この中身ですね。無効にするなら、やっぱり日米間で無効にする合意がされないといけないんじゃないかなと思いますけれども、現在もこの合意は有効ということになるんじゃないでしょうか。外務省、伺います。
○国務大臣(上川陽子君) 御指摘のいわゆる指揮権密約についてでありますが、旧安保条約のときからもそのような合意は成立しておりません。
○高良鉄美君 ガイドラインとの関係も今指摘されましたけれども、次にこの配付資料の三の方を御覧ください。
 民主党政権下の平成二十二年、二〇一〇年、外務省のいわゆる密約問題に関する有識者委員会の報告書です。このマーカーの方は私の事務所で記入してあります。
 自民党政権下ではなかなか行えない調査だと思います。もちろん、この調査が指揮権密約を対象としていないことは承知しています。この調査と報告は十分であったか疑問が残りますが、密約一般については参考になる資料であり、幾つかの密約の存在を認定しています。
 報告では、政府は明白なうそをつき続けたという厳しい指摘があります。指揮権密約についてもうそをついているのではないかとの疑念が拭えません。そもそも、外務省が密約について事実関係を把握していないケースがあるのではないかとの疑問も湧きます。
 報告書の外交文書の管理と公開についてにおいて、密約に関連する対米交渉について、当然あるべき会議録、議事録や来往電報類の部分的欠落、不自然な欠落、あるいは交渉経緯を示す文書類が存在しないために、外務省内に残された記録のみでは十分に復元できなかったとの指摘があります。
 米側は、密約を記録し、引き継ぎ、現在も認識しています。にもかかわらず、日本側が真実が分からなくなっているので日本側の対米交渉力がなくなっているのではないかと指摘する声もあります。
 重要な外交資料が散逸し、過去の経緯が分からなくなっているケースを外務大臣が命じて洗い出し、まだ生存している関係者がいるならできる限り復元し、どうしても復元できない場合は正直に国民に明かして謝罪すべきだと思いますが、大臣の御見解を伺います。
○国務大臣(上川陽子君) 適切なこの文書管理、情報公開は、国民の理解を得ながら我が国の外交を推進していくために不可欠であると理解をしているところであります。他方で、外交交渉上、全ての情報をつまびらかにすることができないというのも事実でございます。関係法令等に基づきまして、国民の知る権利と外交上の秘密保全のバランスを考慮しながら、引き続き外交を推進していくと、こうした方針で臨んでいるところでございます。
 我が国政府の過去の外交活動の成果、この歴史的検証につきましては、外交記録の公開を通じまして、皆様あるいは研究者の方に委ねることとしているところであります。
 政府といたしましては、今後とも、公文書管理法及び情報公開法等の関連法令等に基づきまして、適切な文書の管理、公開を行ってまいりたいと考えております。
○高良鉄美君 外交交渉等の中での簡単に公開できないということも理解しております。ただ、アメリカ側にあって、何で日本にないのかというのがありますし、その辺の管理をきちんとやるのが、やっぱり外務省としても残していただけるものじゃないといけないと思います。
 なぜなら、この旧安保条約の交渉を担当した西村熊雄条約局長を始め当時の外務省条約局の担当者たちは、交渉過程をできる限り詳しく記録し、その評価を将来の国民の判断に委ねようという健全な姿勢を取っていたという矢部氏の著書があります。そう書かれております。
 外務省が責任を持って外交資料を記録するべきではないでしょうか、外務省にお尋ねします。
○政府参考人(宮本新吾君) お答え申し上げます。
 先ほど大臣からも御答弁申し上げたとおりでございますが、我が国政府の過去の外交活動の成果の歴史的検証につきましては、外交記録の公開を通じまして、皆様あるいは研究者の方々に委ねることとしておりまして、外交当局自らが存命の関係者に取材等を行って外交資料を復元するといったことは考えてございません。
 以上でございます。
○高良鉄美君 将来の国民にというのは非常に重要なことで、将来の主権者になるわけですよね。私たちは、それを考えていろんな記録を残していくということがとても大事だと思います。憲法の中でも、将来の国民という言葉があります。やっぱり将来の国民の知る権利を全うするためにも、しっかりとこういう記録は残しておくべきだということを指摘します。
 今、この指揮権密約の経緯をるる説明してきました。日本の防衛省の最高責任者である木原稔防衛大臣に日米間の指揮権密約についての受け止めを伺います。
○国務大臣(木原稔君) お尋ねの点につきましては、外務大臣からこれまで答弁があったとおりであると承知しております。
 その上で、日米間の指揮統制に関して申し上げれば、自衛隊の全ての活動は、主権国家たる我が国の主体的判断の下、日本国憲法、国内法令等に従って行われること、また、自衛隊及び米軍がそれぞれ独立した指揮系統に従って行動することに何ら変更はございません。
○高良鉄美君 これまでのちょっとしたこの資料もありますけれども、やっぱり日米で統合する、あるいは同盟の強化といったときに指揮が二つあるというのは非常に不自然な話ですね。ですから、そういった面も考えて、どういうふうになっているのかも国民に説明するということは非常に大事だと思います。別々と言ったら、何か、うん、そうでしょうねというわけにはいかないと思いますが。
 五日後の四月二十八日は、日本でいえば主権回復の日とされています。しかし、七十二年前、一九五二年の四月二十八日、本土の主権回復から切り離されて、沖縄、奄美は米国統治とされました。沖縄ではこの日を屈辱の日、奄美では痛恨の日と呼んでいます。もうそれぐらいの気持ちが日本全体にないといけないと思います。沖縄は、本土から遅れて憲法を手にしました。憲法で人権が守られると期待しましたが、日米安保と地位協定で人権が脅かされているのが現状だと思います。
 オスプレイについても、墜落事故のときに沖縄県民は飛行の即時停止を求めましたけれども、木原大臣は、米側からかつてないほど詳細に説明を受け、安全を確認しているということで、飛行再開を認めました。安全だから飛行しているのではなくて、その判断をする権限が日本にはないということがよく分かりました。
 治外法権とよく言われますけれども、米軍基地は、それは全く当たっていないということですね。大使館等は確かに国際的にも国際法上もそうだと思いますが、ただ、日本の場合にどうなのかといいますと、やはり日本の法律が適用されるのが当然のことです。いわゆる治外法権と言われていますけれども、この指揮権密約を見ると、大使館、あるいはまあ米軍基地もそうなのかもしれません、日本の中だけではですね。イタリア、ドイツではそこは入って調べるわけですから、日本全土ではないか。この治外法権の場所がですね、もう日本全部が治外法権になってしまっているんではないかと、幾らでも米軍が飛ばせるということになるわけですから、そういった問題もあるということを指摘したいと思います。
 そして、大臣はいずれもこの国内外で法の支配を強調されていますけれども、法の支配の重要な内容の一つが憲法の最高法規性です。私は、これまで憲法より上位に扱われてきたのが安保条約と地位協定ではないかと、本来はそうじゃないんだということを指摘してきました。
 今回の指揮権密約により、法の支配ではなくアメリカの支配だったんじゃないかということを申し上げて、質問を終わりたいと思います。
 ありがとうございました。