国会質疑 Interpellation

2023年4月27日 参議院 外交防衛委員会

質問内容

・「屈辱の日」、「痛恨の日」について

・日本がオーストラリアやイギリスと軍事面で協力関係を深めることに対して東南アジアが警戒していることついて

・中国の、東南アジア非核兵器条約の署名に関する意思表明に対するASEAN諸国の反応について

・AUKUSの創設とその動きに対するASEAN諸国の反応について

・日本が欧米との連携を深め、中国などと対峙する姿勢に対するアジアの受け止めについて

・米中対立に距離を置くフィリピンの冷静な対応について

議事録

第211回国会 参議院 外交防衛委員会 第11号 令和5年4月27日

○高良鉄美君 沖縄の風の高良鉄美です。
 明日、四月二十八日は主権回復の日とされています。しかし、七十一年前の一九五二年四月二十八日、本土の主権回復から切り離され、沖縄、奄美は米国統治とされました。沖縄ではこの日が屈辱の日、奄美では痛恨の日と呼んでいます。
 これ、元々沖縄戦がきっかけになっているということで、今般話題にいろいろなっていますけれども、屋良覚書というのは復帰の一年前にできたものじゃないんです。長々とこの屈辱の日からの歴史が入っている重要なものなんです。ですから、復帰したらすぐ何かに使える、軍事的に使えるというのは大問題だということを指摘しておきます。
 そして、領土問題をこれだけ声高に主張している人たちが、この国土の一部を、沖縄ですね、これを差し出したというのは屈辱感じないんですかと。主権回復したと喜ぶという姿を見て、沖縄県民はまた差別されたと、こういうふうに深く失望したわけです。
 一七七六年七月四日、アメリカの独立宣言が出されました。独立の理由の一部を御紹介します。立法府の同意を得ることなく、平時においてもこの地に常備軍を駐留させている、外国軍隊を文民統制から独立させ、かつ優位とするような措置をとってきた、我々の間に大規模な軍隊を宿営させる法律、見せかけばかりの、この州の方ですね、ステートの住民に対して殺人を犯すようなことがあった場合でも、見せかけばかりの裁判によって彼らを処罰から免れさせる法律を作った、こういうことに言及しているわけです。
 要するに、裁判権の放棄や形式的裁判で起訴をしないということを問題にしているのであって、それは独立戦争が起こるほどの重大な主権の問題であったというわけです。日本の地位協定における裁判権の扱いは、これ主権が実質的に回復していないのではないかと申し上げて、質問に入りたいと思います。
 今回の協定は、浜田防衛大臣が、先ほどもありました、中国を含め特定の国を念頭に置いたものではございませんと答弁されていることはもう存じております。しかし、今回の締結の意味は、やはり西側が結束して中ロなどと対峙するという大きなこの構図の中で考えるべきだと思います。対外的にもそのようなイメージで受け取られる協定だと思います。この点を踏まえ、本日も、西側が結束して中ロと対峙するなどと単純に物事を考えて大丈夫なのかという観点から質問をいたします。
 二〇二一年にAUKUSが結成された際には、マレーシアとインドネシアが懸念を表明しました。今年三月、AUKUS首脳会議において、オーストラリアの原潜配備計画の道筋が合意されました。このときにも、マレーシアとインドネシアが声明を出しました。マレーシアの声明は、軍拡競争を引き起こしたり地域の平和と安全に影響を与えたりする可能性のある挑発を控えることを強調すると、我が国の水域における原潜の運用に関して、東南アジア非核兵器地帯条約、東南アジア平和・自由・中立地帯構想を全面的に尊重し、遵守することを求めるものだったと承知しております。インドネシアも核に関して声明を出しています。
 マレーシアは、この海洋権益に関し中国と問題を抱えていますが、このAUKUSの枠組みによって、自国周辺で中国との緊張が高まったり原潜がやってくるということに警戒をしております。中国の高圧的な海洋進出に苦しめられている東南アジア諸国は、民主主義陣営の軍事的プレゼンスを歓迎するなどと安易に考えてはいけないということです。
 外務省にお尋ねします。
 日本がオーストラリアやイギリスと軍事面で協力関係を深めていくことがアジアにおける緊張を高めると、東南アジアにおいてネガティブに受け止められることがあってはいけないと思います。この点はどのように把握しているのでしょうか。
○政府参考人(岩本桂一君) ただいま御指摘のありました、まず二〇二一年九月のAUKUSの発表以降、御指摘の国を含めた一部のASEAN諸国から様々な反応が示されていることは承知をしております。
 その上で、このAUKUSの三か国につきましては、AUKUSの取組がインド太平洋地域の平和と安定に貢献するものであること、そして通常兵器搭載型の原子力潜水艦能力に係る計画が三か国としての核不拡散上のコミットメントを実行するもので、引き続きIAEAと関連の協議を行うことを強調しておりまして、各国に対してこのような説明を繰り返し行ってきているものと理解しております。
 日本政府としましては、引き続き、このAUKUS三か国と関係各国との間で緊密に意思疎通が行われ、AUKUSの取組に対する理解が一層深まっていくことが重要と考えております。その上で、御指摘のありました日本と豪州、英国との協力関係、これについても各国の理解が得られていく、このように考えております。
○高良鉄美君 AUKUS、今般のこのイギリスと豪州、そしてアメリカです。これが今、枠組みとなっているわけですよね。それで、このAUKUSができてオーストラリアのこの領域内を原潜が通るということは、マレーシア、インドネシアにとっては受け入れ難いということに近いと思います。
 配付資料を御覧ください。東南アジア非核兵器地帯条約です。条約では、米国、英国、フランス、中国、ロシアの核兵器国五か国に対して議定書が署名のために公開されています。五か国のうち実際に署名した国はありません。しかし、AUKUS首脳会議で原潜配備の道筋が発表された後の先月下旬、中国外相が、ASEAN事務総長に対して、東南アジア非核兵器地帯条約に喜んで署名する用意があると述べました。
 中国のこのアプローチですが、ASEANの立場を想像してみますと、このAUKUSよりもASEANに寄り添った手法のように思います。このASEANの人たちは、AUKUSよりも中国の方が地域の平和に貢献するというように見えたのかもしれないという見方もできるわけです。
 前にもお話ししましたが、願望と情勢分析は別です。こういったことを想像し、本当に大丈夫か、AUKUSがかえってASEANを中国に近づけていないか、政府も国会も慎重に状況を見極める必要があるのではないでしょうか。
 外務省にお尋ねしますけれども、この中国の東南アジア非核兵器条約の署名に関する意思表明に対するASEANの反応について何か情報ありますでしょうか。
○政府参考人(伊藤茂樹君) お答えいたします。
 中国外交部の発表によりますと、先月に行われた秦剛外交部長とカオ・キムホンASEAN事務総長との会談におきまして、秦剛部長は、中国側は率先して東南アジア非核兵器地帯条約議定書に調印し、ASEANと団結、ウイン・ウインを提唱し、地域の安全、安定を共に守りたいと考えている旨述べたと承知しております。
 これに対するASEAN諸国の反応につきましては、第三国間のやり取りでございまして政府として網羅的に把握しているわけではございませんけれども、例えば、ルトノ・インドネシア外相は、今月上旬に、ASEANとして東南アジア非核兵器地帯条約議定書の署名に関し、核兵器国と交渉を開始するつもりである旨述べたと報じられているものと承知をしております。
 我が国としましては、東南アジア非核兵器地帯条約は、東南アジア地域における平和と安定及び国際的な核軍縮の進展に資するものであると考えておりまして、引き続き関連する動向を注視してまいりたいと考えています。
○高良鉄美君 今の中にはもう既に述べたことがありましたけれども。
 配付資料二、外務省のウェブサイトからの引用です。これは、ASEANの努力、太枠で書いている部分ですね。このASEANの枠組み、安全保障の枠組みですけれども、ASEANプラス3、あるいは東アジア首脳会議、そして拡大ASEAN国防相会議、こういうものがいろいろあるわけです。数十年にわたって、この日本、中国、米国を包摂する枠組みをつくろうとASEAN諸国は努力をされてきたということです。
 そんなときに中国をにらんだ仕組みであるAUKUSがつくられ、地域で緊張が高まることは、ASEANにとってはこれまでの努力を土足で踏みにじられるようなものなのかもしれません。まして、中国やロシアと対峙するからこっちの味方に付けという接し方は余りにも無神経、傲慢と映るかもしれません。ASEANのこれまでの努力を理解し、尊重し、敬意を持って接することが必要だと思います。
 そこで、林大臣に伺いますけれども、AUKUSの創設とその動きがASEANをAUKUS構成国あるいは西側から遠ざけたということはないでしょうか。
○国務大臣(林芳正君) AUKUSの取組はインド太平洋の平和と安定に資するものであり、日本は一貫して支持をしてきております。
 その上で、豪英米三か国は、AUKUSの取組がこの地域の平和と安定に貢献するものであるという旨を各国に対して説明を繰り返し行ってきているものと理解しております。
 繰り返しとなりますが、日本政府としては、引き続きAUKUS三か国と関係各国との間で緊密に意思疎通が行われまして、AUKUSの取組に対する理解が一層深まっていくことが重要と考えております。国際秩序の根幹が揺らぎ、地域の安全保障環境が一層厳しさを増す中で、日本としては同盟国、同志国間のネットワークを重層的に構築、拡大していくことが重要であると考えておりまして、AUKUS三か国やASEAN諸国を含めて、関係国と引き続き緊密に連携していきたいと考えております。
○高良鉄美君 私が言いたいのは、やっぱりアジアを見てくださいということなんです、この三か国のAUKUSの問題ではなくて。
 東南アジアのオーストラリア、イギリスに対する目というのは調べにくいんですけれども、これも資料にありますけれども、シンガポールの元外交次官、キショール・マブバニ氏の書いたものがありました。どういう人かということを検索しましたら、今年三月の朝日新聞に、シンガポール元国連大使で、〇一年と〇二年に国連安保理議長を務めたと紹介され、二〇二一年四月の読売新聞には、アジア屈指の論客として知られるシンガポール国立大名誉フェローと紹介されていました。この記事は、オーストラリアとニュージーランドだけじゃなく、ASEANの日本を見る目にも当てはまるというような示唆に富むものだと思います。
 日本語のものを読んでいきたいんですけれども、この一ページ目、オーストラリアとニュージーランドは、アジアにおける孤独な欧米の前哨基地として立ち往生することになるだろうと。困難な地政学的課題に対する感情的に快適な解決策を見付けることは致命的ですと。これがAUKUSの根本的な問題です。過去に懸けるのはいつも間違いです。未来に懸ける方がよい。こう書いていますね。
 二ページ目、オーストラリアはインドネシア及び他のASEAN近隣諸国と緊密な関係を築く必要があります。そして、これがAUKUSの決定を非常に危険なものにしている理由です。オーストラリアは、近隣諸国とより緊密に協力することによってセキュリティーの強化に取り組むつもりはないという合図を送りました。遠くの方とやる、近隣のアジアではないと。
 この後に書かれているインドネシアの姿勢の解説も示唆に富みます。AUKUSに対するインドネシアの不安は相当に強いものだそうです。
 象徴的に言えば、オーストラリアはキューバのようになる可能性があります。支配的な地域大国の意思に屈することを拒否しますが、ほとんどの近隣諸国から政治的に孤立している激しく独立した国とあります。
 キューバのようになるというのは非常に印象的な表現だと思います。ちなみに日本、中国、もう一つ言えばロシアのこの隣国ですから、中国はより遠いオーストラリアよりも、中国より遠いオーストラリアよりもはるかに困難な状況に日本が陥らないかということを見るこの著者は、そういうふうな視点を持つかもしれません。
 ASEAN諸国は、米国と中国の両方との良好な関係を維持するよう慎重に努力した。間に入っているわけです。しかし、ASEAN諸国が取ったアプローチは、彼らが北京に頭を下げる、叩頭をする運命にあるという意味ではありません。例えば、南シナ海の行動規範の草案を堅持しています。同時に、中国との経済関係を強化し、互恵関係の発展に努めていますとあります。
 自分たちの努力と知恵に誇りを持っています。この部分は、この著者個人ではなく、ASEANの外交当局者のかなりの方が持っている自負心じゃないかという気がします。この方々の目には、アメリカあるいは欧米と一体化し、中国と対峙しようとする日本はどう映っているのでしょうか。
 オーストラリア政府は日本と緊密になることを祝っていますが、ASEANは経済規模で日本に追い付きつつあり、二〇三〇年には追い抜く、これからはアメリカの世紀ではなくアジアの世紀だと、AUKUSは未来ではなく過去に向かう歩みだということですとも言っています。自分たちの時代が来たという自信にあふれているように思います。
 林大臣に伺いますけれども、アジア諸国が自信を深めている中で、日本が今回の協定の両相手国を含む欧米との連携を深め、中国などと対峙する姿勢を深めていることが、アジアにおいて時代遅れと受け止められてはいないでしょうか。
 また、ASEANの努力、自負、自信などは、文献を読んだ上での私の考えですが、こういった点について、大臣は、これまでASEANの要人と接して、この肌感覚でどのように受け止めているでしょうか。
○国務大臣(林芳正君) 国際社会が歴史的な転換点を迎える中で、我が国といたしましては、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の維持強化に向けて、同志国等との連携を強化してきております。これはインド太平洋地域の平和と安定に資するものと考えておりまして、こうした連携については、ASEAN諸国からも前向きな反応が示されておるところでございます。
 フィリピンでございますが、この自由で開かれたインド太平洋の実現に向けて、日本とフィリピンは、安全保障、防衛を含む幅広い分野で二国間協力を強化するとともに、日、米、フィリピンを含む多国間協力を促進してきております。私も今年二月の首脳会談に同席をいたしましたけれども、この両首脳は、日、米、フィリピン、日、米、フィリピンのですね、協力強化に向けた検討を進めていくということで一致をしたところでございます。
 また、今年一月ですが、プラック・ソコン・カンボジア副首相兼外務国際協力大臣と会談した際も、同副首相から、この同志国との連携の強化などを定めた我が国の新たな国家安全保障戦略に対する支持が示されるとともに、我が国との安全保障協力を強化していくことへの希望というものが示されたところでございます。
○高良鉄美君 フィリピンへの言及がありましたけれども、前回の答弁でしたでしょうか、次に考えている同志国のこのような形の協定というのは、フランスとフィリピンを考えているということがありました。
 そのフィリピンですけれども、十一日にワシントンで、アメリカとフィリピンの外務・防衛担当閣僚会議、通称2プラス2が開かれました。
 これに関する日本の全国紙の十三日の朝刊は、「米とフィリピン 対中で同盟強化 七年ぶり2プラス2」、あるいは、「米比、対中抑止へ協力強化 台湾有事備え 2プラス2合意」などと、リベラル系と言われるものも保守系と言われるものもほとんど変わりはありません。
 しかし、海外を見ると、実は違った情報もたくさんあります。配付資料四は、2プラス2より前の四月十日のブルームバーグです。フィリピンは米国の軍事施設が攻撃目的で使用されることを許可しないという見出しで、本文を読みますと、フィリピン防衛のためにしか使わせないと大統領が発言したようです。
 九日から十一日の日本の全国紙を確認してみましたが、この発言に触れたものは発見できませんでした。先ほどの十三日の新聞でも、フィリピンのこの方針に触れていたものは朝日新聞だけ。あるいは、ほかの期間を調べても、次に述べる十八日の東京新聞が触れているだけです。それによりますと、十五日は、フィリピンの国家安全保障会議が台湾問題に干渉する意図はないと説明しています。東京新聞以外の大全国紙ではこの内容を報じたものは発見できませんでした。
 日本の新聞のみを見て、フィリピンは台湾海峡有事で一緒に戦列に立つ、少なくとも米軍の使用を認めるのだと思った方は多いでしょう。しかし、米国紙のブルームバーグを見るだけでそんな単純な話でないことが分かります。
 外務省に伺いますけれども、台湾有事に米国が介入したとします。この場合、米軍がフィリピンを拠点として中国を攻撃することがフィリピンとの関係で可能ですかということをお伺いしたいと思います。
○政府参考人(岩本桂一君) 本年二月に米国国防省そしてフィリピンの国防省は、米比防衛協力強化協定に基づいて、米軍が使用可能なフィリピン国内の拠点を四か所追加した旨発表したと承知しております。こうした取組を通じて米国とフィリピンの協力関係が強化されること、このこと自体は地域の平和と安定の維持強化に資するものだと考えております。
 その上で、今御質問のありました台湾有事、これ仮定の状況でございますので、この点についてお答えすることは差し控えたいと思います。
○高良鉄美君 今ありましたけれども、この日本、私がずっと言っているのは、日本は孤立していませんかと、大丈夫ですかという、こういう声を少し考えてみたらどうかと。これは保守系の方々もいろいろ指摘をしているわけです。これやはり日本の将来を憂えている方々というふうに、私はそういう方々、尊敬しているわけですけれども、委員の皆さん、とりわけ与党の皆さんには分かってもらいたいんですけれども、皆さんのような戦略を取りたいと考えるとしても、海外の別の視点というものも入れていただきたいなと思います。
 今回、私は中国に寄れと言っているわけじゃなくて、これは、間に立ってアジア諸国を見てバランスを取って考えていただきたいということです。やはりこれが、オーストラリアとイギリスとの軍事的協力関係を深めることがどうしても必要だと単純に考えるのに賛成するんであれば、これは後々我が国を危うくする行為だと申し上げて、質問を終わりたいと思います。

◇反対討論

○高良鉄美君 私は、沖縄の風を代表して、今回の二条約と二法案に反対の立場から討論をいたします。
 今回の協定は、政府が進めている西側諸国との結束を深め、中ロなどと対峙をする戦略の一環と捉えられます。しかし、この戦略は非常にリスクの高いものです。世界の大きな流れとして、西側諸国とその中心であるアメリカの力は相当落ちてきています。サウジアラビアが中国の仲介でイランと国交正常化をしたことは、中東におけるアメリカ離れと中国の存在感の向上を意味するだけでなく、ペトロダラー体制の崩壊をもたらし得る重要な出来事です。
 脱ドルの動きは、中ロやBRICS諸国にとどまらず世界中に広がっており、米ドルが基軸通貨の地位から転落する可能性を現実のものとして見なければなりません。経済力で見ても、BRICS五か国の購買力平価GDPはG7のそれを超え、さらに、BRICSに参加を希望する国も多数あり、西側諸国が世界経済を主導した時代は終わりつつあります。
 政治的に見ても、グローバルサウスなどへの西側の影響力は低下しています。例えば、世界で対ロ制裁に参加している国は少数派で、アジアでは日本、韓国、シンガポール、仮に台湾を国と数えても四か国のみ、西アジア、南アジアではゼロ、アメリカとカナダ以外の南北アメリカ大陸、アフリカもゼロという状況です。先日のマクロン大統領の訪中の際の発言を見ても、ヨーロッパがアメリカとは違った戦略を取る可能性も無視できません。そもそも、アメリカの民主主義国家が結束して権威主義国家と対峙するという現在の戦略は、あくまで現バイデン政権のものにすぎません。政権が替われば違った戦略が取られます。
 このような状況の下で、日本がアメリカの現政権の戦略と整合させる形で西側諸国と軍事的協力関係を深めることは、将来における日本の国際的立場を大いに危うくする極めてリスクの高い行為です。今のような姿勢で中国への対抗姿勢を取っている日本は、アメリカの覇権が崩壊し、あるいは政権交代によりアメリカに中国と融和的な政権ができた場合、独り中国の前に取り残され、どうなるんでしょうか。
 台湾を見ると、日本のマスコミにはほとんど紹介されませんが、アメリカは台湾を利用して中国を牽制している、アメリカを信じず、アメリカと距離を置いてこそ台湾は米中対立による衝突に巻き込まれないことができるといった民意は強く、私が本委員会で紹介した民意調査では過半数を超えていました。台湾の人たちは、物事の本質が見えていると思います。そして、戦争の恐怖を我が事としてリアルに感じているとも言えるでしょう。
 中国や台湾に近い沖縄でも多くの人が同じように感じています。しかし、国家防衛戦略がスタンドオフミサイルについて我が国の様々な地点からと記載したように、本土の各地に長距離ミサイルが配備されようとしており、本来、本土の人たちも同じように感じなければなりません。日本も、台湾の人たちのように賢明な見方をし、西側諸国とむやみに軍事的に結び付きを深めるのではなく、西側諸国との関係と中国との関係とで日本独自のバランスを取った安全保障戦略を取るべきです。
 これに対し、岸田政権は、西側諸国との結束を深め、中ロなどと対峙する戦略を取っており、AUKUSのメンバーであるオーストラリア、イギリスと軍事面での協力を深化させる今回の協定もその一環と捉えられます。西側の結束は、中国から見れば中国包囲網であり、地域の緊張を高める行為であって、外交努力の障害となる行為です。
 以上、見てきたように、リスクの高い戦略の一環であること、そして地位協定上の裁判権の問題が含まれていることなどから、今回の協定には反対することを申し上げ、私の反対討論を終わります。

反対討論の動画はこちら↓